心理学あれこれ

ホメオスタシスとは

私は米国で英語を使って心理学を学んだので、例えば、家族療法をファミリーセラピー(Family therapy)を呼んでいました。ずっと「ファミリー・セラピー」と呼んでいたものを「家族療法」と呼んだ途端に、なんだか堅苦しく「療法」なのだから「家族の病気」を治すもの、という感じを受けました。言葉とは面白いものです。Therapyの語源は「癒す、奉仕する」なので、「療法」も間違った訳語では決してないのですが、私の感覚では療法は「病気」を対象とするのに対して、therapyはそれ以上のもっと広い意味があると思います。

人間は有機体としてそのバランスを常に取り続けていて、バランスを崩した時には自律的にそれを回復する力があります。このバランスを回復する働きをホメオスタシスといいます。例えば、右の足首を痛めた人が、体の重心を左側へ移動させることでバランスをとって歩行を続ける。怒りが湧いてきた時に、ゆっくり10まで数えて怒りを落ち着ける、などです。バランスを回復するために外界とコンタクトを取ることも頻繁に起こります。例えば、喉が渇いた時に水分を補給してバランスを回復する。嫌なことがあった時に友人に愚痴をきいてもらってスッキリした気持ちになる、などです。時間と共に状況が変わりますから、人間は常にホメオスタシスの働きによってバランスをとり続けています。

ホメオスタシスの働きが鈍くなり、バランスが取れなくなったとき、有機体は健康を失います。「医療」も「心療」も基本的には人間のホメオスタシスの回復を支える役割を果たすものと考えられます。そして、どうしても人間のシステムだけではホメオスタシスの作用が不十分な時に手術や投薬がなされます。

心理的なホメオスタシスの働きが弱まりバランスを失うのは、診断が下りるような症状がある時だけではありません。むしろ、誰もが日常的に経験していることです。人によって、バランスの崩しやすいところ、バランスの回復が難しいいところ、など特色があります。心理カウンセリングは、自分の特色を知る場でもあります。自分の特色や傾向は自分では分かりにくい時がありますが、それを理解した上でどう対処していくか(予防と対処)をカウンセラーと一緒に考えることは有益です。

自分の傾向を理解する際に、全体論的な視点が重要になります。心のバランスを体の動きで回復する人もいますし、体の状態が心に影響することもあります。そして、有機体の一部で変化が起こると、それがゆっくりと有機体全体に影響を与えてシステム全体が新しいバランスの上で機能し始めます。一つの「癒し」が生活の様々な面に効果を与えるのはこのためです。

私の考えでは、セラピーが目指すのはホメオスタシスの機能の回復です。例えば、幼少期の経験からの思い込みが強く、その思い込みを中心にバランスをとりながら生きてきた人は、カウンセリングでその思い込みに気づき、手放すことで、新しいバランスを取ろうとホメオスタシスが働き出します。家族療法で言えば、家族のバランスの取り方に着眼します(いろいろなアプローチがあるので、この限りではありませんが)。整体で身体を整え、化粧水で肌のバランスを整えるように、心理カウンセリングでは心のバランスを整えます。サイコセラピーを「心の筋トレ」ということもできますが、この文脈では「心のエステ」とも言えるかもしれません。そして、いずれの場合も、バランスが大きく崩れた状態になる前にケアすることで、ホメオスタシスの回復がスムーズになります。