ファミリー・コンストレーション

前の記事で、偶然「家族療法」という言葉が出来てきたので、そこから続けて、家族力動の様々なアプローチの一つ、ファミリー・コンストレーションについて書こうと思います。

コンストレーションというのは「配置」という意味ですから、ファミリー・コンストレーションは「家族の配置」といった意味になります。このセッションはグループで行われます。ファシリテーターがいて、全てのステップをガイドします。あなたのファミリー・コンストレーションをする場合、まずグループの中から、あなたの家族の役割をする人を選びます。例えば、父、母、兄、などです。選ぶ際には、兄なら兄の雰囲気に近いと感じる人を選びます。そして、その父、母、兄の役割の人たちを、あなたが直感で「ここだ」と思う場所に「配置」していきます。場所だけでなく、立つときの向きにも注意を払います。全員の配置が終わったら、再度、その配置で「これでよい」と感じるかを確認します。次に、ファシリテーターが「父に話しかけてみませんか」「この場所に立つと、どんな感情が起こりますか」など、ワークをリードしていきます。一通りのワークが終わったところで、今度は、役割を演じた人がどのような感想を持ったかをシェアしていきます。さらに、そのワークを輪になって見守っていた他のメンバーも感想をシェアする場合もあります。

「具体的にやること」をざっと書くと以上のようになりますが、これは意識的には気づいていなかった、家族の中の無意識のダイナミックス(力動)を浮き彫りにする非常にパワフルな手法です。様々なメッセージや思いがけない視点を得ることができます。とても体験的なものなので、類似の経験等がないと、書いたものを読むだけで理解するのは簡単ではないと思います。

大学院の家族力動学のクラス(Family Dynamics)では、学生は学んだ理論を分担してクラスで実践しました。例えば、自分の家系図を使って家族のダイナミクスを分析して発表するなどです(ジェノグラムといいます)。私はファミリー・コンストレーションに挑戦することになりました。詳細は省きますが、ファシリテーターから提案された場所に立ち、そこから「家族の配置」を眺めた時に、とても深いところから感情が湧いてきて、圧倒されたことがあります。そして、その感情を見つめることで、新しい視座を獲得することができました。

実は、ファミリー・コンストレーションをした学生には、セッションの振り返りを「家族」とするようにという宿題が出ました。実際に何をするかというと、部屋に家族分の椅子を輪に並べて、その各々にオブジェクトを置き、私が椅子を移動しながら、例えば兄の椅子に座って兄になって発話する、といった具合で「家族のメンバー間で」会話をするのです。はじめは、「本当にそんなことするのか?」「ちゃんと会話になるのか?」と懐疑的に思わなくもありませんでしたが、その教授は非常にパワフルで授業時間を100%以上活かして家族力動のエッセンスを伝えてくださるような名物教授でしたから、思い切ってやってみました。それはやはり不思議な経験でしたが、やっただけの成果はあったと思います。

基本的に、家族は生まれた時から成長期を通じて、毎日を共に過ごすグループです。自分の家族以外の家族を経験することはないために、家族のあり方を客観視したり、その中での自分の立ち位置を離れて見つめることは、なかなかできることではありません。意識では「見る」ことができないことも無意識には蓄えられていて、それが家族や自分のあり方に大きく影響を与え続けます。ファミリー・コンストレーションやジェノグラムは、無意識の力動を意識が「見える」形で浮き上がらせる手法の例です。

実は、「意識の拡大」というのがセラピーの一つの側面です。つまり、無意識の内容を意識の中に持ってくることで、私たちはワークすることが可能になります。無意識の内容物には「言語」と「時間」がないため、そこにアクセスするには工夫が必要になります。椅子の間を移動しながら相手になりきって発話するというのは「エンプティ・チェア」と呼ばれ、ゲシュタルト療法でよく使われるものですが、これも無意識を意識化する技法の一つです。