サイバネティクス:家族システム

家族システム論の基本的な概念について紹介していきます。

(1)サイバネティックス

Cybernetics(サイバネティックス)は、20世紀半ばにMITの数学者Wienerが提唱した概念で、ギリシア語の「舵取り」がその語源です。「舵取り」の語源から推測されるように、サイバネティックスとは、自らのパフォーマンスについての情報(フィードバック)を活用することで全体をコントロールする自己調整機能をもつシステムについての考え方、もしくは研究分野です。環境に適応し生存し続けるために、コミュニケーションシステム(相互関係)は、フィードバックの活用と制御によってホメオスタシス(最適バランス)を保つ傾向があると考えます。フィードバックには2種類あって、現在起きている傾向をそのまま強化していくように促すフィードバック(正のフィードバック)と、反対に、その傾向を弱めるように促すフィードバック(負のフィードバック)があります。情報のフィードバックによる制御は、通信やシステムといった分野だけでなく、はるか昔に選択された全ての生き物に共通の普遍的なプロセスであると指摘されました。そして、その考え方が家族というシステム(相互関係)にも適用されるようになります。

正のフィードバックの例は、階段を駆け上がって脈拍が上がり息が切れた状態になった際に、それが「身体に異常があるのかもしれない」という不安を喚起し、さらに脈拍が上がる(正のフィードバック)場合があげられます。この不安を増大させる正のフィードバックが循環し続けることで、全体として制御不安な状態(例えばパニックアタック)になると考えます。

また政治の世界でもサイバネティックスの考え方が有効です。例えば有力政治家の周りにはその政治家と同じ考えを持つアドバイザーが付きますが、その結果、政治家がどのような政治的判断をしようとも、それを軌道修正する力(負のフィードバック)が起こりにくくなります。結果として、正のフィードバックが働きすぎて、政治家の思いが暴走する状況になり得ます。そして、一般市民からみると「どうしてそんな決断をしたのか」と思えるような事態に発展しかねません。

上記のように、正のフィードバックが循環し続けると、システムが制御不能に陥ります。もともとサイバーネティックスは機械の研究から始まったこともあり、その焦点は負のフィードバックの活用によるホメオスタシスの維持にありました。例えば、室温が上がると機械の温度も上がります。それが負のフィードバックを生み出し、機械の方が機能レベルを調整して自らの温度上昇を抑制する、などです。

家族療法の文脈では、サイバネティックスの考え方を家族という相互関係(コミュニケーション)に適用しました。この考え方では、家族の中の決まり(家族の中で許容される行為など)、その決まりを守るための負のフィードバックメカニズム(罰、罪の意識、なんらかの症状など)、そして負のフィードバックメカニズムが有効でなくなった場合に何が起こるのか(正のフィードバックの循環)、といった点に注目します。

例えば、思春期の子どもが、門限を破って親に叱られたとします。親としては、門限という家族の決まりを守らせるための負のフィードバックとして子どもを叱るのですが、子どもはそれによって門限を守るようになる(システムの安定、ホメオスタシス)どころか、逆により反抗的になったとします。この場合、負のフィードバックと期待されていた「叱る」という行為が実際には正のフィードバックとして機能し、子どもの態度を一層反抗的にしています。しかし、親はそれまで負のフィードバックとして機能していた「子どもを叱る」という行為を続けます(実際には、正のフィードバックの循環)。子どもは、さらに反抗的になり、とうとう親の手に追えないところまで事態が悪化します(システムの制御不能)。このような状況は、悪循環とも呼ばれます。

しかし、正のフィードバックは必ずしも悪ではないという見方もできます。上の例で言えば、親が自分たちのコミュニケーションを一歩離れたところから眺めることができれば、子どもが成長し、もはや叱ることで親のいうことに従わせることが可能な年齢ではないという事実に気付くことができるかもしれません。そうすれば、親は子どもと相談してきまり(門限)を変更することが可能になります。

サイバネティックスに強く影響をうけた家族療法家は、家族の機能不全の原因を家族内のコニュニケーションのパターン(フィードバックの循環)に求めます。そのため、「コニュニケーション学派」と呼ばれます。

参考)Nichols, M. P., & Schwartz, R. C. (2005). The essentials of family therapy. Boston, Ma: Pearson /Allyn and Bacon.