チョコレートからヘロインまで

久しぶりに、本に関する投稿です。本書のテーマは「薬物(ドラッグ)」です。私は日本語訳を読みましたが、原著のタイトルは「From Chocolate to Morphine: Everything You Need to Know About Mind-Altering Drugs」です。

本書の前書きにもありますが、著者はこのテーマが様々な感情を呼び起こし、中には強い抵抗を感じる人もいるだろうことを想定した上で、それでも、正確な情報こそが「薬物」とうまく付き合うために必要であると考え、この本を執筆したと書いています。以下でも簡単に触れますが、ここでいう「薬物」は広い意味での薬物で、例えばアルコールも含まれます。

薬物とうまく付き合うには良い情報が必要だという根拠の一つとして著者が挙げているのは、興味深い事実です。つまり、アルコール中毒者が生まれやすいのは、片方もしくは両方の親がアルコール中毒者の家庭か、もしくは両親共に絶対禁酒者の家庭であるという事実です。後者の場合、「良い酒の飲み方」を示すモデルの欠如が決定的要因だと述べています。また、ユダヤ人の間のアルコール中毒者発生率の低さは、ユダヤ人家庭生活における、時折の社会的・宗教的なアルコール使用の蓄積によるものとみなされている、つまり良いモデルの存在であるという指摘もしています。

この本の優れたところは、二つあると思います。一つは、「できるだけ良質な情報を提供する」という目的に特化している点です。著者によれば、「良いドラッグ、悪いドラッグというのは存在せず、ドラッグの良い使い方と悪い使い方が存在するのみ」であるので、各人が賢明な選択をするための良質な情報を提供するという姿勢が貫かれています。そのために、薬物を可能な限り中立的に捉え直していて、つまり、合法、非合法、是認されたもの、否認されたもの、などの区別なく、「物質」として「チョコレートからヘロインまで」を等しく詳述しています。このような著者の視点からみると、アルコールをたしなむ多くの人は、薬物の乱用への反対運動に乗り出すけれども、彼ら自身が強力な薬物に溺れていることを全く認識していない、ということになります。

二つ目は、文化人類学的な視点とでもいいましょうか、さまざまな「物質」をめぐる文化間の比較や歴史上の流れなども詳述されており、多数の写真も交えながら読み物としても十分楽しめる内容になっている点です。なぜ太古から人類は薬物を必要としてきたのかに関しても一章を割いて考察されています。この本は二人の米国人の共著ですが、そのうち一人は医学博士号を持つ専門的な薬物の研究者で、世界中の薬物を使用する文化圏を旅して回った経歴の持ち主であることが、その背景にあるように思います。

「薬物の使用」というと、自分は関係ないと感じる人が多いかもしれませんが、それは認識の偏りと自分自身の行いをありのままに見つめることをしていないからかもしれません。

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