感情の抑圧によるうつ

感情は私たちを導く役割を果たします。例えば、不安は私たちに慎重さが必要だという合図であり、怒りは境界線が侵害された合図であるように。また、私たちは興味を感じればそれに没頭しますし、友人の辛い話を聞いて悲しさを感じることでその友人を慰めます。嬉しい時には歌ったり踊ったりすることもあるでしょう。強い怒りなど、感情をそのまま表現すると問題になる場合もありますが、基本的に私たちには感情を表現することが必要です。別の言い方をすると、感情は私たちの行動の基礎にあるのです。

親が子どもの感情を十分に理解し支持することせずに、感情を表現することを禁止したり、子どもが表現した感情を否定したりすると、子どもは感情を危険なものだと感じるようになり、感情を遠ざけるようになります。多くの場合、息をひそめたり、筋肉を緊張させたりして、感情をやり過ごす方法を身につけていきます。

怒りや喜びといった感情を表現するよりも感情を抑えて過ごした方が、エネルギーを節約できると考えるかもしれません。しかし実際は、感情を抑えることは、かなりのエネルギーを必要とするのです。つまり、筋肉の緊張であったり、息を浅くすることだったり、感情を気づかないように押しやることだったりが、知らず知らずのうちにエネルギーを消耗するのです。感情の抑圧を常にする人は、結果的に膨大なエネルギーを消耗していることになります。

感情とつながることで、人はその人らしさを表現しながら、生き生きと過ごすことができます。反対に、感情を抑圧したり、ため込んだりすると、生き生きとしたエネルギーが表現されることなく、押し留められてしまいます。何が楽しいのか、どんなことに興味を感じるのか、どんな時に悲しくなったり疲れたりするのか、そういった自分の感情を十分に感じることができない状態が続くことが、うつ状態の要因になる場合があります。

解決方法は、感情を押し留めるのではなく、感情を感じて表現することです。しかし、これは言うのは簡単ですが実際には簡単にできることではありません。というのも、自分が感情を抑圧していることに気づいていない場合が多いからです。幼少期に感情を自由に表現することを禁じられたり、表現した感情を否定されたりした結果、それらの禁止や否定が無意識に受け入れられているので、まずはそのこと自体に気づく必要があります。そして、身体、感情、そして思考の各レベルで、感情への恐れを手放し、感情表現の禁止から自由になる必要があります。感情とつながり自分を表現することは自然であり良いことであることを、身体をリラックスさせ、思考のレベルで「理解する」だけでなく、「感じる」ことが大切になります。また、幼少期の禁止事項は人間関係の中で学習したものなので、その脱学習も人間関係の中でされることが必要になります。信頼できるパートナーなどとの人間関係の中で脱学習の機会を得る場合もあるかもしれません。

カウンセリング(サイコセラピー)では、セラピストとの安全な人間関係の中で、クライエント が感情、つまり生きるエネルギーを内側に抑え込むのではなく外側に表現していけるように、様々な試みを通しながら少しずつ感情の流れの方向を変えていきます。始めは戸惑うことが多いかもしれませんが、次第に感情とつながりそれを表現することができるようになり、それにともなって、生活が生き生きとしてくることが期待できます。

参考:Cortright, B. (2020). Holistic healing for anxiety, depression, and cognitive decline. CA: Psyche media.