怒りの向けかえによるうつ

もともとは他者に向けて感じた怒りを無意識のうちに自分に向けることで、自分で自らを攻撃すると、それが抑うつ状態の原因になる場合がありますが、これは、フロイトの指摘したところです。これは、怒りを感じた人を失うことがその契機になる場合もあるとされます。そして、フロイトの指摘以来、臨床分野でも研究分野でも、このフロイトの洞察は支持されています。

サイコセラピー(心理カウンセリング)のゴールは、無意識の怒りにクライエントが気づき、意識レベルでその感情を感じ、表現することになります。しかし、その他者に向けられた激しい怒りを感じることは危険であると無意識のうちに判断してその怒りを抑圧しているわけですから、その怒りを意識化して表現することは、言うのは簡単でも実際に行うことは決して簡単なことではありません。

例えば認知療法では、自分に対する否定的な自動思考に対処することで、認知レベルのセラピーを行います。一方、精神分析的セラピー では、根底にある感情の動きに注目し、無意識の意識化を目指す、つまり無意識のレベルでセラピー を行います。

無意識のレベルでワークする場合、他者への怒りを感じないようにしている防衛を緩めることがまず必要になります。セラピーの安全な場で、セラピストと共に探究しながらクライエントが自分の怒りに気づくプロセスには、時間がかかることも少なくありません。しかし、怒りが感じられて、その怒りが誰に対するものであるか明確化され、そしてその怒りが表現され解放される機会を獲得すれば(必ずしもその他者に対してである必要はなく、セッションルームででも十分です)、抑うつ状態は改善に向かうと考えられます。

参考:
Cortright, B. (2020). Holistic healing for anxiety, depression, and cognitive decline. CA: Psyche media.