憂うつな気分とうつ病の違い
一時的な気分の落ち込みは誰でも経験したことがあるでしょう。「憂うつだ」「やる気がでない」「力がわかない」など、落ち込んだ時の気持ちは、どれも心的エネルギーの低下を伺わせるものです。気持ちが落ち込むと、思考面でもネガティブになり、過去を後悔したり将来を悲観したりする傾向が強まります。身体面では、背中が丸まり、目線は床に落ちがちになります。身体の動きは減り、動作は緩慢になるでしょう。心のエネルギーが低下すれば、身体のエネルギーも低下することは自然なことです。
それでは、この誰もが経験する「落ち込み」と「うつ病」は、どう違うのでしょうか。実はこの二つは混同されることがよくあります。ここでは混乱を避けるために、誰でも時には経験する落ち込みを「抑うつ状態」と呼ぶことにします。
抑うつ状態とうつ病の一番の違いは、抑うつ状態は一時的なものであるのに対して、うつ病は長期的である点です。抑うつ状態の場合は、時間とともに自然に憂うつな気分は晴れて行きますが、うつ病の場合には、数ヶ月から数年と、長期に渡り落ち込んだ状態が続きます。
もう一つの違いは、気分の落ち込みの程度です。うつ病の場合は、抑うつ状態よりも落ち込みが大きいと言えます。つまり、うつ病では、自分に価値がないと感じたり、罪悪感に苛んだり、将来を極端に悲観したりと、落ち込みの程度が強くなります。そして、集中力の低下や、それまで楽しんでいたことにも無関心になるといったことも起きます。睡眠や食欲にも影響が出ます。過眠になったり不眠になったり、そして食極旺盛で食べすぎたり食欲が減退したりします。さらに、自殺念慮が生じる場合もあります。世界が絶望的に虚しく感じられ、何をする気も感じられず、ベッドから出ることさえもできなくなります。
うつ病の原因はまだ解明されておらず、うつ病の診断は、その人の気分、感情や態度に基づきます。そのため、うつ病に似た症状を引き起こす他の病気(甲状腺機能低下症や慢性疲労症候群など)の可能性を排除するために、医学的検査をすることが大切になります。
診断基準 (DSM-5)
精神疾患の分類と診断の手引(DSM-5)によると、うつ病の診断基準は以下の通りです。
A) 以下の症状のうち5つ以上が同一の2週間の間に存在する。これらの症状のうち少なくとも1つは(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
(1)ほとんど一日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
(2)ほとんど一日中、ほとんと毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退
(3)有意の体重減少、または体重増加、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加
(4)ほとんと毎日の不眠または過眠
(5)ほとんと毎日の精神運動焦燥または制止
(6)ほとんと毎日の疲労感、または気力の減退
(7)ほとんと毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感
(8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんと毎日認められる
(9)死についての反復
B) その症状は、臨床的に意味のある苦痛、また社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
C) そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない
上記9項目について図入りで説明しているサイトがありましたので、以下にご紹介します。
ベックうつ尺度
また、自分で自分の状態を把握する一つの方法として、ベックうつ尺度 (Beck Depression Inventory)があります。これは21の設問について、4つの選択肢から選んで回答してスコアを出すことで、うつ状態を「通常 (normal)」から「極度 (extreme)」のレベルまで測定するものです。注意していただきたいのは、点数が高くても悲観的になる必要なはいこと、また、診断は医師にされるものであって、この質問表の結果は、あくまでも診断の材料に過ぎないことです。憂鬱な気分が長びくと感じた時には、早めに対応することが大切です。
多様な症状、多様な回復の道
DSM-5では上記のようにうつ病を定義していますが、実際のうつ病の症状は、その人の身体、感情、思考、そして精神的(霊的)要素が織りなすものですから、十人十色であり、そこからの回復の道すじも個人個人によって異なります。
参考:Cortright, B. (2020). Holistic healing for anxiety, depression, and cognitive decline. CA: Psyche media.
日本精神神経学会「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き」(2014). 医学書院