マインドフルネスについて書いた際に、マインドフルネスとは「価値判断をせずに”今、ここ”に意識を向ける」と書きました。この「今、ここ」というのは、カウンセリングでとても大切な在り方です。
私が初めて「今、ここ」という表現を耳にしたのは、ゲシュタルト療法の専門家とのセッションでした。始めは「今、ここ」と聞いても、何を意味しているのかピンときませんでした。留学中は「here and now」という表現は、日本の生活で言えば食事の際に「いただきます」というのと同じような感覚で、同じくらいの頻度で聞いたような気がします。それくらい大切であると同時に、それほど頻繁に何度も言われないと身につかないこととも言えます。
クライアントの課題の原因は過去にあるとしても、クライアントの課題そのものは「今、ここ」にあり、「今、ここ」で表現されています。それは、感情であったり身体感覚だったり、湧いてくるイメージかもしれません。また、セッション中のクライエントとセラピストの関係性の中で、それは表現されているかもしれません。それらを「今、ここ」に捉え、安全な場の中でもう一度しっかりと経験し直すこと、感じ尽くすこと、それが未完の問題の完了つながり、その部分が全体に統合されることになります。その結果として、クライアントの選択肢が増え、世界により生き生きと関われるように支援するのがセラピストの役割とも言えます。
ゲシュタルト・セラピーは、徹底して「今、ここ」を観察し、気づきを言語化していきます。ハコミ・セラピーも「今、ここ」での身体感覚やイメージを中心にプロセスを進めていきます。また、精神分析的アプローチでも最新の理論は「今、ここ」に強い関心を寄せています。いずれも、「今、ここ」に留まることで、それまでとは違った経験への可能性が広がります。