ハコミセラピー(2)

ハコミセラピーはロン・クルツによって提唱されたソマティック・アプローチ(身体的なアプローチ)です。身体感覚を無意識への入り口と捉えていると言えます。ロン・クルツがハコミについてその概要を説明している動画がありましたので、簡潔に要約して紹介したいと思います。


ハコミセラピーでは、クライエントが自分自身を観察して理解する、つまり、自分がある行動をとるのはなぜなのかを探求することを援助します。これが全般的な姿勢です。

いくつかの段階を経て探求を進めます。まずは、自己探求の準備段階。ここでは、セラピストとクライエントの関係を築き、探求するテーマを見つけます。多くの場合、セラピストがテーマを見つけ出します。というのも、探求テーマはクライエントにとって無意識なので、クライエント自身が無意識のものを見つけ出すのは不可能だからです。

次に、自己探求(self study)の段階です。この段階では、私たちが「小さな実験(little experiments)」と呼ぶユニークな試みによって、クライエントが自分について新しい発見をすること、新しい「データ」を得ることを支援します。質問によってではなく、実験によってそのデータを見つけ出します。実験では、クライエントにある特定の意識状態(マインドフルネス)になり、反応が起こりやすい状態に留まってもらいます。無意識に起きてくる反応によって、クライエントがどのように組織されているのかを学ぶことができます。世界の中での自分の存在をどう経験しているかに気づくのです。多くの場合、人は自分が経験していることは現実だと考えていますが、神経科学や心理学の専門家が指摘するように、私たちは情報を無意識のうちにプロセスしてから意識上で認識しています。私たちが見ているものは、ある意味では全て幻覚だとも言えるわけです。仏教徒であれば、きっと同意してくれるでしょう。つまり、実験によってクライエントの自分に対する考えや世界に対する信念が明らかになるのです。

最後の段階は、クライエントの信念によって生じる 不必要な苦しみや辛さをプロセスします。自分に対する考えや世界に対する信念が、心理的栄養を取り込むことをブロックしていると捉えます。例えば、誰のことも信頼できないという信念を持っている人は、よい人間関係を築くことができず、人からの支えを受けることができません。信頼できる人が身近にいたとしても、自分の信念のために貴重な機会を逸してしまいます。また、一つの苦しみや辛さが、別の苦しみや辛さへとつながっていくことがよくあります。第三段階では、この苦しみや辛さを癒していきます。

全ての段階において最も重要なのは、セラピストの意識状態です。セラピストの意識状態が、オーラ、エネルギーといったものをつくり出し、それが無意識レベルでクライエントにも影響を与えます。セラピストがその意識状態になるには何年もの訓練が必要かもしれません。共感力と明晰さがあり、そして意識を「今、ここ」に向け続けることが要求されます。というのも、セラピストとクライエントの無意識のつながりは「この瞬間」にあり、クライエントに生じる感情は「この瞬間」のセラピストの在り方や感じ方に直結している(connected)からです。


私は、セッションでハコミセラピーをクライエントに提案することがありますが、初めての時には、上記のような説明をして、クライエントがハコミセラピーに関心があるか、試してみたいかの意向を確認します。ハコミセラピーを試してみたいというクライエントも、身体感覚(ハコミ)からではなく言語で探求を続けることを選択するクライエントもいらっしゃいます。もちろん、どちらでも大丈夫です。必要な場所には、どのルートをとっても最終的には近づいていきますので。また、ハコミは効果的なアプローチではありますが、毎回のセッションでハコミだけをすることは、私はしていません。

クルツ氏が最後に強調しているのは、セラピストの在り方が効果的なセラピーには重要だという点です。これはセラピーの効果要因の議論にもつながる点です。よろしかったら過去記事に書いていますのでご一読ください。