トラウマによる不安

幼少期に繰り返しトラウマ的な体験をすると、未成熟な脳は不安に敏感になります。不安や恐怖に反応する扁桃体は常に危険に対して警戒モードを保ち、日常生活のあらゆるところに危険が潜んでいるかのように緊張し続けます。深刻なトラウマにさらされた脳は(例えば、日常的な虐待など)、海馬のサイズが25%ほど小さいことが観察されています。海馬は感情調整に重要な役割を果たすので、海馬が未熟であることは、興奮する扁桃体によって生じる不安を調整する力が弱いことを意味します。結果として、日常生活が通常よりも危険と不安に満ちたものに感じるようになります。同様に、PTSDと診断された人の脳も常に緊張し危険に対して警戒した状態です。そして、トラウマが深刻であればあるほど、そしてその繰り返しの期間が長ければ長いほど、不安に対する閾値が低くなり、小さな出来事が不安を感じるきっかけになります。

トラウマ的な経験には、(身体的、精神的、性的)虐待、いじめ、ハラスメント、戦闘地域での経験など様々なものがあります。さらに、家庭内暴力やアルコール依存症などによるコントロール不可能な(危険を感じる)態度や暴力を目撃すること、経済的困窮の経験、差別、出産時の体験、自然災害、親近者の死などもトラウマ的体験になると考えられます。

トラウマに対して、その効果がよく研究されているものとしては、以下のアプロートがあります。
・EMDR
・身体アプローチ(ハコミ、ソマティック・エクスペリエンス、センサリモーター・セラピーなど)
・認知療法
・暴露療法

一度のトラウマ的体験(例えば、事故など)によるPTSDは、比較的短期に改善される場合がありますが、長期的なトラウマ的体験による影響を改善、解決するには時間を要します。

いずれの場合にも、トラウマのセラピーに一番大切なのは、クライエントがセラピストとの関係に安心を感じることです。十分な安心を感じる関係が築けていない段階でセラピーを進めることは危険であり、急がないことが大切になります。

さらに、セラピーでは、クライエントが精神的に不安定になったり興奮した際に、自分でできる対処方法をみつけていくことも大切です。これを「道具箱」にみたて、その中に、クライエントに合った対処方法(道具)を複数準備しておき、日常生活の中で精神的に不安定になった時に、いつでもその中から道具を取り出して自分で対応できるようにしていきます。道具としては、以下のような例があります。

・呼吸に集中する
・身体に意識を集中する。特定の身体感覚に意識を持っていく。
・リラクゼーション法
・マインドフルネス
・ビジュアライゼーション(特定の景色や人物などを思い浮かべる)
・入浴する
・音楽を聴く
・冷たいタオルを顔に当てる
・その場でジャンプを10回する
・手触りのよい材質のぬいぐるみを抱く

工夫次第で道具はいろいろ考えられます。自分にあった「道具」を選び、事前に練習します。道具の種類がある程度あったほうが、安心できるかもしれません。

トラウマ・ケアには忍耐が必要です。焦ってプロセスを急ぐと、再トラウマ化の危険があります。きちんと訓練を受けたサイコセラピスト(心理カウンセラー)を選び、焦らずに取り組むことが鍵になります。

参考:
1) Cortright, B. (2020). Holistic healing for anxiety, depression, and cognitive decline. CA: Psyche media.
2) Supporting survivors of trauma: how to avoid re-traumatization by Online MSW Programes (2021年5月14日閲覧)