アサーティブネスの定義は専門家の間でも一致していませんが、一言で表現すれば、「相手のことを尊重しながら、自分の主張をしっかりと相手に伝えること」です。「アサーション」と呼ばれることもあります。
自分の主張を相手に伝えるというのは、実は簡単なことではありません。特に、伝える内容が相手に対しての要求だったり批判だったりする時に、なかなか思うように伝えられなかった経験のある人は少なくないと思います。
アサーティブなコミュニケーションをするためには、少なくとも、以下の4つの点が重要になります。順番に、「誠実」「率直」「対等」「責任」です。
1)自分が伝えたいことは何か
相手に伝えたいことが、実は自分でも明確にわかっていないことがあります。ポイントは自分に正直になることです。自分に正直になることは、同時に相手に誠実になることです。恐れや不安、自信のなさや見栄などで、本当に言いたいことから目をそらすことはよく起こります。自分に向き合い、自分の心の声に耳を澄ましながら、伝いたいことを明確にします。多くの場合、短い一文になるでしょう。
2)どのような表現を使うか
ここでのポイントは「相手に伝わる言葉」を選ぶことです。アサーティブネスでは、回りくどい言い方や婉曲表現は避けます。なぜなら、婉曲表現は相手に「行間を読む」や「空気を読む」ことを期待しており、言葉にしなくても自分の言いたいことを相手が汲み取ってくれることを前提にしているからです。私たちは皆、各々が独自の世界観を持っています。空気を読むことを相手に期待することは、相手の独自性を否定することにつながります。自分も相手も双方を尊重するのであれば、表現は率直であることが好ましいというのがアサーティブネスの考え方です。
3)心構え
アサーティブネス・トレーニングの歴史には心理的アプローチや政治的アプローチなど複数の潮流がありますが、その一つは人権に対する問題意識です。社会で差別される側の人(女性、障害者など)のエンパワメントを一つの目標としていると言えます。この意味では、フェミニズムの文脈でアサーティブネスが語られることもあります。ここでのキーワードは「対等」です。相手に対して傲慢な「あなたは当然私の意見を聞くべきだ」でもなく、卑屈な「つまらない意見だけど聞いてくれる?」でもなく、あなたと私は対等だという心構えに基づいたコミュニケーションをアサーティブネスでは重視します。
4)結果に対する責任
他者に自分の主張を伝えると、何かが変わります。それは、目に見えない関係性の質の変化のようなものかもしれませんし、具体的な行動かもしれません。アサーティブネスでは、自分の主張を伝えた結果に対して自分で責任をとることが大切にされます。別の言い方をすると、言った結果を受け入れる覚悟とも言えます。逆に、「伝えない」という選択をした場合にも同じことが言えます。何も変わらない、その結果に対して責任を持つということです。
具体的なヒントは、アサーティブジャパンというNPO法人のサイトに情報が充実しています。関心のある方はリンク先をご参照ください。
冒頭にも書きましたが、アサーティブネス・トレーニングの定義は一つではありません。もともとは、1950年代に、対人不安や感情表出が抑制されている患者を対象した行動療法として始まりました。その後、対象はアルコール依存症の人々や問題を抱えたカップルなどに広がっていきます。70年代に入ると、社会的権利を抑圧されている弱者(特に女性)、そして広く一般へとトレーニング対象はさらに拡大していきます。90年代以降は、ソーシャルスキルトレーニングとして発展してきました。ちなみに、前述のアサーティブジャパンは、女性の権利に対する問題意識から世界中でトレーニングを実施している団体です。
スペースHiRaKuのセッションでは、クライエントのご希望があれば、アサーティブネスの練習をすることができます。相手に伝えたいことは何かを一緒に考えたり、ロールプレイをしたりしながら、クライエントが相談室の外で(それぞれの環境に応じながら)自分をアサーティブに表現することをサポートします。
参考)
1)三田村仰(2008).「行動療法におけるアサーショントレーニング研究の歴史と課題」『人文論究』, 58( 3), pp. 95-107.
2)特定非営利活動法人アサーティブジャパン(2007).『アン・ディクソン来日記念講演 対立を超え対等な地平へ』