不安とは何か

現在、日本における不安障害の患者数は、うつ病とうつ状態の患者数を上回っています。米国でも同様の状況で、成人の5人に1人は不安障害を経験していると言われます。慢性的なストレス、パニック、PTSDやその他の不安は、とても一般的になっており、もはや「障害」というより「生活様式」であるとさえ言えそうです。

DSM-V(精神障害の診断につかわれるマニュアル)には、多くの種類の不安に関連した障害が列挙されています。例えば:

・分離不安障害
・全般性不安障害
・社交不安障害
・パニック障害
・広場恐怖症 

などです。

ところで、そもそも「不安」とは何でしょうか。ストレス、不安、心配、などいずれも同じ神経経路によって起こります。つまり、交感神経が活性化し、不安や恐れに敏感に反応する扁桃体が興奮します。その扁桃体の興奮を海馬と大脳新皮質が落ち着かせようと作用しますが、海馬の成長が未熟であったり働きが弱くなっていたりすると、情動調整がうまく働きません。結果として、扁桃体によって脳が「ハイジャック」された常態になり、不安を感じることになります。現代生活のストレスや幼少期のトラウマなどにより海馬が最適な作用をしないケースが増加しており、そのために情動の高まりにうまく対応できない人が増えているのではないかと考える心理学者もいます。

不安を察知すると、人は将来の起こりうる最悪シナリオを考え始め、同時に息を止めたり潜めたりします。実際、不安を表す英語 anxietyの語源は、「窒息」や「胸を縮めること」を意味するラテン語の angere です。情動が高まった時に呼吸によって酸素を取り入れると、高まった感情を臨機応変にその場を乗り切るエネルギーに変えることができますが、呼吸を止めてしまうと、情動の高まりは不安として感じられると考えられます。

ちなみに、英語のanxietyとfearの単語のどちらも日本語では「不安」と訳されることが多いようですが、anxietyは原因がはっきりしない場合の不安、fearは原因の明らかな不安だとされることが多いようです。また、論者によっては、anxietyは自己の内から生じる不安、fear は外部環境から生じる不安だと定義することもあります。

次にストレスについて見ていきます。脳の三層構造に対応する形で、ストレスを3種類に分けて考えることができます。

脳の三層構造というのは、脳を以下の3つのパーツに分ける考え方です。
①脳幹:生命維持のための反射的現象を担う。
②大脳辺縁系:感情を担う
③大脳新皮質:抽象的思考を担う

一つ目のストレスは、脳幹に対応したものです。例えばライオンに遭遇したサルの脳幹はアドレナリンの大量放出を指令し、結果としてサルは反射的に逃走します。所謂、「闘争、逃走、凍結」反応です。

二つめのストレスは、感情を担う大脳辺縁系に対応する社会的なストレスです。例えば、人間関係上の感情のやりとりはプラスに働く場合もありますが、ストレスにもなることは経験上わかりやすいと思います。また、組織の中の序列によるストレス、社会的差別によるストレスなども挙げられます。いずれも、序列の上位に位置する人よりも下位に位置する人の方がストレスに晒されるリスクが高まります。

3つ目のストレスは、思考を担う大脳新皮質に対応するストレスです。つまり、将来のことを想像して不安になったり、過去を思い出して後悔したりする、おそらく人間のみが感じるストレスです。大人数の前で話す時には、事前に(場合によっては何日も前から)緊張し、その出来栄えが思うようでなかった場合に、後日に振り返っては後悔します。これは、自己肯定感や自己イメージが脅かされる時に感じるストレスとも言えます。

新しい課題に挑戦することで力がつくなど、適度なストレスは人間を成長させることが期待でき、情動の高まりが一概に悪いものだと決め付けることはできません。注意を要する「悪いストレス」は、見通しのつかない慢性的なものや、全くコントロールのできないストレスです。不安やストレスに対処する鍵は、自分にとって適度なストレスの幅を知ること、そして、情動の高まりをワクワクした興奮や良いストレスとして経験することのできる健康な脳と自己を育てることだと言えるでしょう。

参考:
1) Cortright, B. (2020). Holistic healing for anxiety, depression, and cognitive decline. CA: Psyche media.
2) Rothschild, B. (2000). The body remembers: the psychophysiology of trauma and trauma treatment. NY: Norton.