東京カウンセリングスペースHiRaKuでは、クライエントとの対話を通じてのカウンセリングもしますが、「今、ここ」の身体感覚からアプローチすることもあります。その際には、ゲシュタルト療法、サイコシンセシス、そしてハコミセラピーという技法を用います。今回は、ハコミセラピーについて書こうと思います。
かつては、「心理療法」といえば、フロイトの精神分析に代表される「クライアントが話し、セラピストがそれを聞いて解釈をする」というものが主流でした。しかし、自分の過去の傷や現在抱えている問題について話すことで頭では理解できても、クライアントたちが抱えている症状がなかなか消えていかない場合があることに、ある時期からセラピストたちは気づき始めます。
もちろん、過去のことや現在の問題を言葉にすることにも大きな意味があります。実際、カウンセラーとの関係性の中で「語ることは癒すこと」とも言える場面が日々のセッションで起こります。しかし、言葉以外のアプローチがあった方がよいのも事実だと思います。言い換えると、言葉でも到達できるけれでも、場合によっては、言葉よりも良いアプローチ方法があるということです。
フロイト後に、ロジャースが提唱した人間性心理学では、大切なのは、「今、この瞬間」に起きていることに気づき、「今、ここ」に起こっていることを使ったワークなのだと考えます。哲学の実存主義の影響も受けながら、ゲシュタルト療法が生まれ、さらにそこからロン・クルツ氏によって開発されたハコミセラピーが生まれました。これらの技法は、人間性心理学とトランスパーソナル心理学の流れをくむ、最も新しいセラピーの技法のひとつです。
「ハコミ」とは、ホピ・インディアンの言葉(”hakimi”)で、「あなたは誰ですか?」という問いかけです。
そして、この問いかけに対する答えは、すべて身体が知っていると考えるのがハコミです。ハコミセラピーでは、身体に対する気づきを多く使います。マインドフルネスの意識状態で「今、この瞬間」にとどまり、「頭」で考えるのではなく、身体感覚の導きに従って探究を進めます。自分のからだとつながり、からだの声に耳を傾けることで、自分の中心とつながり、それが癒しにつながっていきます。
現代では、「頭」「心」「身体」を別々にとらえ、思考する「頭」を一番大切だと考える傾向があります。現代のように身体から遠ざかった生活をしていると、「身体の声を聞く」と言われても経験が乏しいために理解が難しく、スピリチュアルというか、怪しい感じすらあるかもしれません。それでも、クライエントとセラピストの信頼関係の中で身体に問いかけると、身体は様々なメッセージを伝えてくれます。それはクライエントのリソースでもあり、同時にそれ自身が癒しになります。
東京カウンセリングスペースHiRaKuでは、クライエントに合わせて、精神分析的なアプローチで対話を主にしてカウンセリングを進める時もあれば、クライエントの同意を得た上で「今、ここ」の身体感覚からアプローチすることもあります。また、やや専門的な話になりますが、「精神分析的心理療法」といっても様々な考え方があり、私が訓練を受けたのは「間主観」学派、「関係性」学派と呼ばれる精神力動学の中でも最も新しいアプローチです。そこでは「解釈」と同じくらい、またはそれ以上にクライエントとカウンセラーの「関係性」とそこでの「経験」が重視されます。私の中では、かつてのように「精神分析」と「人間性心理学」は対立するものではなく、共存が可能なものです。このあたりについては、また別の機会に書くかもしれません。
参考)
1) ロン・クルツ著、高尾威廣、他訳『ハコミセラピー カウンセリングの基礎から上級まで』星和書店、1996年
2) ハルコ・ワイス他編、ウィリングヘム広美、岡田千恵子監訳『ハコミセラピー完全ガイド 理論と実践』星和書店、2020年
3) Rothschild, B. (2000). The body remembers. The psychophysiology of trauma and trauma treatment. New York: Norton.