アタッチメントのまとめ ②

前回の投稿につづき、アレン博士のインタビューからその要旨をご紹介します。アレン博士は、アタッチメントやアタッチメント・トラウマ、そしてメンタライジングの分野で著名な心理学者です。

アタッチメントは何歳までに形成されるのか

アタッチメントは、子どもが生まれてから1年くらいの間、特にその1年の後半に形成されることが実験でわかっています。1歳になる頃までには、子どもが母親に対してとる態度には明らかなパターンが観察されるようになります。まだ言語を獲得していない乳児が、感情的に苦痛を感じた時に養育者に対してどのように関係していくことが最善の戦略なのかを理解していることは大変興味深いことです。同じ子どもが、片方の親に対しては安心型アタッチメントを、もう片方の親には不安型アタッチメントを発達させることも見られます。人生初期の社会的学習の成果と言えます。

アタッチメントのスタイルは変化するか

もちろん、アタッチメントのスタイルは変化します。変化しないのであれば(アラン博士がディレクターを務めている)クリニックを閉鎖することになります。アタッチメントは変化するだけでなく、その変化はある程度予想可能でもあります。例えば、母親との間に安心型アタッチメントを形成した子どもがいるとします。何らかの原因で人間関係に変化が生じて、母親が不安や脅威を感じるようになったり病気やうつになったりすると、それまで比較的安心型だった子どものアタッチメントが、より不安型に変化することがあります。またその逆も起こり得ます。不安型アタッチメントを形成していた子どもの親が、子どもの精神的な苦痛に対応する余裕を持ち感情的対応度が改善すると、その子どものアタッチメントはより安心型に変化するのです。1歳になるまでに形成されるアタッチメントに、その後も変化するという柔軟性があることは喜ばしいことです。ですから、私たちがすべきことは、人間関係を改善し、困難に直面した際には互いに相手に向き合う余裕を持ち精神的に応答できるようになること、これが重要です。

安心型アタッチメントが常に最善なのか

安心型アタッチメントが、精神的な苦痛への対処として最も効果的であることを考えると、私たちには安心型アタッチメントの人間関係が必要だと言えます。しかし、柔軟性も必要です。というのも、誰に対しても安心型アタッチメントに基づいて行動することが正しいとは言えないからです。応答してくれなさそうな人に助けを求めても意味がありません。私たちは、安心型、不安型の異なる戦略を学び、必要に応じて使い分けることが必要になります。時には、文句を言ったり騒いだりして相手に自分の欲求を満たしてもらう必要があるかもしれませんし、感情的な距離をとることで人間関係を維持する必要があるかもしれません。つまり、さまざまな人間関係の状況に応じて、アタッチメントのパターンを柔軟に使い分けることが大切なのです。ただ、その中で私たちが必要なのは安心型のアタッチメント関係であると言えるでしょう。

セラピーにおけるアタッチメントの重要性

認知療法や瞑想などで感情的苦痛への対応スキルを学ぶことは重要です。アタッチメントはそのようなスキルと補完関係にあると言えます。手を握る実験を思い出してほしいのですが、精神的な苦痛を調整するために最も効果的なのは、信頼できる人とのつながりです。苦痛への対処スキルとこのアタッチメントは、車の両輪のようなものです。つまり、信頼できる人とのつながりにも支えられながらも、ある程度は自分で対処するスキルを身につけることが大切になります。根本的には、安心を感じる人間関係が重要です。セラピストとの関係の中でその安心感を身につけていくことが可能です。しかし、一番重要なのは日常生活における重要な人たちとの関係です。それはパートナーや家族であることが多いでしょう。セラピーは、安心感を身につけ、それを他の人間関係へと広げていく、その橋渡しのような役割をします。

最後にアレン博士より一言

最後にとても大切なことを付け加えたいと思います。安心型の関係には、各々が相手の困難に対して対応する余裕(availability)と応答性(responsiveness)が一貫(consistent)していることが大切になりますが、完璧は求められていないことです。心理学には「ほどよい、ほどほどの(good enough)」という概念がありますが、これは安心型アタッチメントの余裕と応答性にも言えることです。完璧とは程遠い、ほどほどの余裕と応答性が大切なのです。そして、人が一貫性して余裕と応答性を保つために必要なのは、その人自身が安心型の人間関係に支えられていることです。ここが肝心な点です。私たちが根本的な幸福感を感じるためには、一人一人がお互いにとっての安心型アタッチメントの対象になる必要があるのです。

終わりに

以上に動画の内容をかいつまんでお伝えしました。著名な心理学者であり精神科医であるアレン博士が20分弱の動画の中でアタッチメントの要点をわかりやすく説明していますが、いかがでしたか。

アタッチメントパターンは変化すること、そして、アタッチメントパターンというのはグラデーションであることが伝わったでしょうか。必ずしも「安心型」と「不安型」が明確にわかれているのではないのです。そして、いつも安心型がベストであるわけではなく、私たちは全てのパターンを持っていること、大切なのはその柔軟な使い分けであることを、確認の意味を込めて繰り返したいと思います。

尚、東京カウンセリングスペースHiRaKuのアプローチは統合心理療法(Inrtegrative psychotherpy)であり、さまざまな理論や技法からクライアントごと、セッションごとに最適の療法、技法を選択していきます。動画でアレン博士が言及していた認知療法のアプローチ(瞑想、マインドフルネスを含め)にも対応していますし、アタッチメント・パターンに働きかける療法も採用しています。