メンタライジング (3)

メンタライジングは、自分や他者の態度から自分や他者の心(感情、信念、要望など)を想像する力です。例えば、疲れて帰宅した人が自室で静かに過ごすのを見て、「疲れて静寂の中にいたい」「今は人と話したくない」等とその人の心を想像することがメンタライジングです。通常、私たちは日常生活で無意識にメンタライジングをしているので、改めて取り上げるまでもない当たり前のことのように感じるかもしれません。しかし、無意識にしているということは、できていないくても気づかないということでもあります。

メンタライジングは、私たちが心理的な発達と共に獲得していく能力ですが、メンタライジング能力を獲得する前は、私たちはどのように自分や他者の心を理解しているのでしょうか。この点に関して、以前の投稿記事(メンタライジング(2))で「pretend mode」と「psychic equivalent mode」の二つについて説明しましたが(訳しにくいのでここでは英語のまま)、今回は第3のモードである「teleological mode」について説明します。このteleological mode(以下、目的論モード)は、他の上記2つのモードと比べて最も未熟な主観性だとされます。

Teleologyは目的論と訳され「起きていることには意味がある」と考える現象学的視点です。例えばユング派の夢分析も目的論的な姿勢に基づいています(夢の中で起きたことには全て意味がある、というように)。目的論モードでは、起きていること(観察可能な行動)が心(感情、信念、要望など)を表現していると捉えます。例えば、仕事から帰宅したパートナーが「疲れたから一休みする」と伝えた後に自室に籠った時でも、「自分から去って行った」という誰にでも明白な物理的行動から「私と一緒にいたくないのだ」「私が嫌いなのだ」と解釈するのが目的論モードです。言葉には意味がなく行動だけが意味を持つ主観的世界です。同時に、目的論的モードでは、他者に自分の心の状態を理解してもらうには行動で表すことが唯一の手段であると感じます。自分の苦しみを理解してもらうために自傷をする行為が当てはまる場合もあると考えられます。

私たちは誰もが日常的に目的論的な解釈をしています。例えば、自分の発言中に携帯電話でテキストしている人がいたら、自分の発言に関心がないと考える場合です。しかし、通常、私たちは相手の行動だけから相手の心を推測するのではなく、それ以外の手がかりからも相手の心を想像することで(例えば「緊急の要件で焦っている」「発言の要点をメモしている」など)、相手をより現実的に理解しようとします。別の例では、一般的に贈り物をくれるという他者の行動から好意を感じることは自然ですが、同時に、他の可能性を想像することもあります(場合によっては賄賂かもしれない(!)とか)。しかし、目的論モードでは気遣いや言葉では相手の好意を感じることができず、「贈り物をくれる」「何時間でも話を聞いてくれる」等の行動のみが他者の好意を想像する唯一の根拠となります。「あなたの心=あなたの行動」、この等式のみが成立する主観的世界です。

メンタライジングする力を獲得した後でも、ストレスなどに晒されて脳の機能が低下した場合に、メンタライジング機能を獲得する前の主観的モード(pretend modeやpsychic equivalent mode、目的論モード)に後退することがあります。そのような健康度の低い主観的状態では、いずれの場合も、他者の心を確信を持って推測する傾向が強く現れます。もしも、自分がそのような精神状態であることに気づいたら、それをストレスが高い状態であることに気づいたり、過去のトラウマとの関連の有無を考えたりと、自分自身をよりよく知るサインと捉えることができます。サイコセラピー(カウンセリング)では、対話と体験を通じて、メンタライジングの力を培うことがその主要な目的の一つと言えます。

参考)

  1. Bateman, A., & Fonagy, P. (2006). Mentalization-based Treatment for Borderline Personality Disorder : a Practical Guide. Oup Oxford.
  2. BorderlineNotes. (2023, July 5). Personality Disorders & “Lower-Level Brain Functioning” ( 3 Non-Mentalizing Modes) by Dr. Bateman [Video].YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=RLo81Ft-gbQ