防衛機制⑦ 行動化

行動化 (acting-out)は、言語化されない無意識の衝動、欲求、葛藤、感情などを行動によって表現する防衛です。行動化によって、その無意識の衝動等に意識的に向き合うことを回避し、自我がその安定を保つことができると考えられます。

行動化が防衛として未熟なものと分類されるのは、無意識の感情等について言語化がされていない段階での防衛であるからです。つまり、発達段階でいえば、言語獲得以前の乳幼児期から私たちが使ってきた防衛だと考えられます。

元来、行動化は、サイコセラピー(カウンセリング )に関連して、クライエントが意識したくない無意識レベルの衝動、欲求、葛藤などが意識にのぼってきそうになった際に、それを回避するために行動で無意識に表現する防衛を指しました。直接的な例で言えば、セッションのキャンセルや遅刻です。後に行動化はその意味が拡大され、サイコセラピーに直接関連することでなくても、言語化されていない無意識の内容物が行動的に表現されること全般に適用されることが多くなりました。例えば、家庭環境の変化によって情緒不安定になった子どもが、その不安を適切に言語化することができずに学校で乱暴になる場合などです。

行動化というと「望ましくない」言動のように誤解される傾向がありますが、精神分析の防衛機制としての行動化は、あくまでも精神分析に関連した無意識の内容が行動を通して表現されることであって、その内容の是非に関する価値判断は含まれていません。

この投稿で参考文献に挙げている書籍の中で、著者のマクウィリアムズは本来の意味合いでの行動化の例をあげています(つまりサイコセピラーに関する行動化です)。

その例では、支配的で常に批判的な母親を持つ女性のクライエントが、著者(ナンシー・マクウィリアムズ)とのサイコセラピーの開始後しばらくして、同僚のナンシーという名前の女性と性的関係を持つようになります。著者は、これをクライエントの行動化であると解釈しています。つまり、支配的で批判的な母親のイメージをセラピストである著者に投影し、それによって生じる無意識の葛藤を同じ名前を持つ同僚と親密な関係を結ぶことで解消しようとしていると理解しました。

現在のように広義の行動化が一般的な使い方になると、自傷、摂食障害、性的逸脱行為、暴言、暴力、アルコール依存症なども行動化に含まれるようになります。意識化を回避したい無意識の葛藤や欲求があり、それを抱えきれずに無意識に行動に移すということです。

ちなみに、精神力動学の最新の潮流であるRelationalな考え方では、行動化は自我防衛であると捉えるよりも、感情的に明確に把握 (emotinally articulate)できていないものの表現であると捉えることが多いようです。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.


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