防衛機制⑥ 身体化

身体化 (somatization) は、抑圧された感情や葛藤が無意識に身体症状になって現れる防衛です。身体化によって、葛藤や衝動、感情に意識上で向き合うことを避けることができ、自我の安定が保たれると考えられます。「soma」はギリシャ語の「身体」を意味する言葉に由来します。

幼い子供は、自分の気持ちを言葉にすることが困難な場合が少なくありません。そのような時には養育者が感情を言語化することを教える必要があります。「それは悲しかったね」「悔しいね」「嬉しいね」「楽しみだね」というように。養育者によって気持ちを言葉で表すことを教わらないでいると、子どもは気持ちを身体化や行動化で表現するようになります。つまり、感情の状態が身体上に現れるのです。

身体化は、しばしば仮病と混同されますが、身体化は言語表現されることのない情緒面での不調を身体で経験することであり、同情の獲得や義務からの逃避のために病気のふりをするのとは異なります。また、「体調が悪いのは気持ちの問題(病気だと考えるから病気だと感じるのだ)」というのとも異なります。意識と身体を切り離し、意識(思考)が身体をコントロールするという想定は、もはや啓蒙時代の古びた迷信に過ぎません。脳は身体の一部であり、身体から切り離され独立した監督者ではありません。身体と思考、心は互いに密接につながり影響しあっていて、思考は身体に対してリーダー格というわけでは決してありません。

人類初期のストレスへの反応は身体的であり、それは多くの場合、現在も私たちのストレスへの反応の基礎になっています。圧倒的なストレスに晒された時の「闘争、闘争、凍結」という身体的反応は脳に深く刻み込まれていますし、恥を感じる場面で頬が赤くなるのも自動反応的です。大きなショックを感じると、脳からは大量のグルココルチコイドが放出され、身体の様々なシステムに影響を与えます。消化器系、循環器系、免疫システム、内分泌系、皮膚、呼吸、心臓、これら全てが感情的なストレスにさらされると、様々に活性化するのです。

成長とは、上記のような身体のシステムの活性化によって引き起こされた、まだはっきりしないような曖昧な段階での身体感覚を意識化、言語化できるようになることともいえます。微妙な身体感覚を意識化ができないまま成長すると、自動的な身体化が唯一の感情表現の方法になりかねません。

身体化という防衛への過度な依存が生じる原因としては、不安定な愛着形成や幼少期のトラウマの経験により身体化しやすくなるとする研究があります。他方で、大方の予想に反して、子の身体化に対する親の対応の仕方が影響するという実証研究はあまりありません。

非常に辛い環境では、免疫システムが脆弱になります。親類や友人の中に、ストレスのせいで頻繁に病気になる人を一人や二人思いつくことが多いでしょう。実際、久しく病気がちな患者(例えば重度の喘息)にサイコセラピーが役立つかもしれないと考え、カウンセリングを勧める医師もいますし、慢性的皮膚炎や頭痛などの治療を求め続けて最後の手段としてカウンセリング を受けにくるクライエントもいます。身体化の防衛に偏って過度に依存するクライエントは、それが自動的身体的反応であり、感情を言語化する能力が育っていないため、言語による自己探究が中心である精神分析的なセラピーでは対応が難しい場合が多いと考えられます。

身体化の防衛を使っているという判断は慎重になされるべきです。というのも、病気のストレスが心理的に影響することもあるからです。例えば、無意識のうつ状態が病気として現れることもあれば(身体化)、病気のストレスによってうつ状態になることもあるからです。加えて、心理的な苦痛を身体的な苦痛であると表現することが受け入れられやすい文化もあります。そのような文化では、成熟した人であっても心理的苦痛を身体表現することがままあり、それが身体化という未熟な退行のプロセスであると保証することは、より難しくなります。

以下に身体化の例をいくつか挙げてみます。

身体化の例1)
「成績優秀な生徒が高校に入学し、特進学級に入る。有名大学進学のプレッシャーの下、毎日勉強に励むうちに、1日に20回程度失神するようになり、受診」。
この例では、「勉強をしたい欲求」「勉強すべきという価値観」と、「休養したい欲求」「勉強をしないことへの不安」とが葛藤し、その葛藤が身体化していると考えれられます。

身体化の例2)
「潰瘍性大腸炎と診断されている男性が、治療の成果もあり、症状が落ち着いてきた。しかし、家族と喧嘩をしたりストレスがかかると、症状が悪化する」。
この例では、家族関係のストレスが病状の悪化という身体化として表現されます。皮膚炎や喘息などもストレスがかかると症状が悪化することが多いと言われています。

身体化の例3)
「会社で人間関係の問題が深刻になり、出社日の朝になるとひどく頭痛がする。」
この例では、社会規範(出社すべき)と矛盾する自分の欲望(出社したくない)との葛藤を意識化できずに身体化していると考えられます。

また、極端な的な例としては、運動選手のイップス、歌手の失声などがあります。このように、様々な身体化を通じて、抑圧された葛藤が無意識に身体を通して自らを象徴的に表現をしていると考えられます。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.

Kelty Mental Health Resource Centre “Somatization and the Mind-Body Connection