防衛機制(15) 自分自身への向け換え

「自分自身への向け換え(turning against the self)」は、その名称から想像できるように、他者に対する否定的な感情を自分に向ける防衛です。例えば、自分の幸福を左右しうる権威を持つ人に対して否定的な感情を持つことは葛藤を引き起こすので、その否定的な感情を自分に向けます。権威者に対しての批判は危険なものですが、自分を批判することは安全です。子どもの場合、養育者は自分の生存を左右する存在です。その養育者が安心や信頼を感じられる人物でない場合(例えば自殺願望のある親、一度家を出ると数日間返ってこない親、虐待する親)、子どもにとってはそれを認めることは脅威に感じられるので、子どもは自分を責めることで防衛します。状況を変える力を持たない子どもにとっては、自己批判的な気持ちがどれほど不快なものだったとしても、自分の生存が現実的に脅威にさらされていることを認めることよりはマシだからです。組織の上長と部下、グループリーダーとメンバー、先生と生徒などの関係においても使われると考えられます。

程度の差はあれ、誰もがこの「自分自身への向け換え」によって否定的な感情、意見や認識を自分に向ける傾向があります。なぜなら、状況がどれほど酷くても、多少なりとも自分がコントロールできるような幻想を抱くことができることです。「自分を改善することで状況は良くなる可能性がある」と。

「自分自身への向き換え」は、「取り入れ (introjection)」の成熟した形の防衛だと考えられます。取り入れは、他者の否定的側面をそのまま丸呑みしますが、自分自身への向き変えでは、否定的側面に部分的に同一化します。「自分自身への向き換え」は、精神的に健康な人にもよく使われ、問題を他人の責任と考えるよりも自分の責任を考えます。自動的かつ強迫的にこの防衛を使う傾向は、抑うつ的パーソナリティまたは関係性の自己虐待的なパーソナリティに共通してみられます。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.