『生きる』教育(第1巻)

献本していただいて、手に取る機会に恵まれた本です。想定読者は、広く子どもに関わる仕事をしている人や、小中学生の子どもを持つ親、そして、小中学生の子ども自身、でしょうか。

「『生きる』教育」は、児童養護施設から通う子どもが全生徒の1割を占める生野南小学校で開発がスタートし、現在では、田島中学校までの9年間のプログラムとして実施されています。

「『生きる』教育」とは、「自分」「赤ちゃん」「生い立ち」「大人」「パートナーとの関係」「親子関係」等、子どもたちの人生の中で一番身近にありながら、心の傷に直結しやすいテーマで、自分の心と体を大切にしつつ、人とつながる力、つまり、生きていくうえで不可欠な力を培う教育である。」(はじめに。p. 3)

子どもたちの年齢に適切な表現や内容であることに十分留意しながら、性、デートDV、発達障害などのテーマを子どもたちが自分に引きつけながら考えていくプログラムです。先生の話を聞くだけでなく、子どもたちが個人やグループで意見を出したり話し合ったりする参加型の学習スタイルをとっています。

私が心理学を大学院で学ぶ過程で「これはもっと早く知っておきたかった」「これは義務教育で取り上げるべきでは」といった知識に出会うことが数々ありました。それがこのブログを書く動機の一つになっているわけですが、この「『生きる』教育」は、子どもの人生に役立つ本格的な知識内容を子どもの年齢に合わせた方法で伝えているところが、素晴らしいと思いました。

例えば、トラウマについては、私もこれまで脳との関係を含めて何回か書いてきましたが、同様の内容が子どもたちに伝えられています。自分の状態を正しく把握するには、その状況を正確に表現する言葉が必要であると考えると、このプログラムで学んだことが、子どもたちが将来困難な状況に向かい合ざる得なくなった時に大きな支えになると感じます。

もう一つ印象に残ったのは、プログラムを実施する先生方の姿勢です。児童養護施設から一般の家庭まで、多様な背景を持つ子どもたちが集まる教室での授業は、事前準備での細部にわたる配慮が必要だと思いますし、当日の覚悟のようなものも求めらるのではないかと想像します。企画段階での、専門家や関連諸機関との連携も緊密であったことがうかがわれます。

こういった取り組みが全国の学校で普通に実施されるようになることを願います。義務教育でのIT技術の活用が進むに応じて、学校の機能が変化すると言われて久しいですが、将来の学校では、スクリーン越しでは学ぶことが難しい「『生きる』教育」のようなグループワークの比率が高まっていくのかもしれないと感じました。

ともすると暗いニュースばかりに目が行きがちな昨今ですが、将来に対して希望を感じる本でした。