定期的なセッションが大切な理由

心理カウンセリングでは、その効果(クライエントの変化)は毎回のセッションで少しずつ起こります。セッション後、その変化を日常生活に統合していき、またセッションを受ける、このサイクルを繰り返しながら、少しずつ変化が起きてきます。変化が自然に起きるため、私(心理カウンセラー/サイコセラピスト)に指摘されて初めてクライエントが自分の変化に気づくことも少なくありません。それは「症状」がなくなっている場合もあれば、「当初は問題だと思っていたことが問題に感じられなくなっていた」という場合もあります。1回のセッションで大きな気づきを得て課題を乗り越えていくという場合もありますが、稀なケースです。

スペースHiRaKuでは、定期的にセッションを受けることを勧めています。心理カウンセリングは、基本的に、週に一度、同じ曜日の同じ時間に同じ場所でセッションを受けることがベストです。これにはいくつか理由があります。

心理カウンセリングには自由という要素が欠かせません。一般常識や長年かけて身につけてきた個人の価値判断から離れるという意味での自由です。逆説的ですが、自由には制限があって始めて立ち上がってくるという特徴があります。その制限をつくる工夫の一つが、同じ曜日、同じ時間に同じ場所でセッションを持つことです。カウンセリングには自由が大切、とサラリと書いていますが、自由の大切さは強調しすぎることができないほど重要です。「自由で守られている時、魂は自らを癒す」と言われるほど、効果的なカウンセリングに欠かせない根本的な要素です。また、このカウンセリングでいう「自由」は「非日常生」と深く関係しています。カウンセリングの日時と場所を固定することは、非日常性を担保する一つの工夫でもあります。つまり、私たちの「日常生活の都合で動かせない」ものにするわけです。決められた曜日の定刻に同じ場に出現する非日常の場。例えば、お祭りは非日常性がその大きな魅力だと思いますが、場所はもちろんのこと、その日時は多くの場合お祭りごとに決められていて、私たちの都合で変えられるものではありません。

「自由で守られている時、魂は自らを癒す」の「守る」に関してですが、心理カウンセリングでは心の深いところを探究したり、今まで無視してきた感情に意識を向けたり、誰にも言えなかったことを言葉にしたり、といったことが起こります。これらには少なからず不安が伴います。そして、少しずつ変化も起こります。変化というのはそれ自体が不安を呼び起こします。なぜなら誰にとっても変化するのはこわいことだからです。不安を感じつつも変化をしていく、そのプロセスにクライエントが向き合うためには、枠組みがしっかりしている必要があります。カウンセリングの場がふわふわしていたりぐにゃりとしていたら、クライエントがその場を信頼して変化に向けて一歩を踏み出す勇気を持ちにくいからです。今日のセッションの後、次回も、その次も、同じ曜日の定刻にセッションの場が確実に存在するという確信が、今日のセッションに向き合うクライアントを無意識に支える効果を持ちます。しっかりとした枠組みに守られてこそ、クライエントは変化していくことが可能になるのです。セッションの曜日と時間を固定することは、この枠組みの役割を果たします。

また、神経科学の視点から言うと、心理カウンセリングではクライエントの神経細胞(ニューロン)の間に新しいシナプスと呼ばれる結合を作っていることになります。長年かけて強固になっている既存のシナプスとは別の、新しい神経細胞間の結合を少しずつ作っているのです。その新しいシナプスは、クライエントがカウンセリングの目標として定めた変化に向けられています。セッションで今までとは違った感じ方や見方を経験することで、新しいシナプスが立ち上がります。定期的に新しい経験をして日常生活に統合することで、新しいシナプスが安定してきます。この意味で、心理カウンセリングを筋肉トレーニングに例えると、定期的にセッションを受けることの重要性を理解しやすいかもしれません。つまり、筋トレも間隔をあけ過ぎずに定期的にすることが大切ですし、一朝一夕で目標は達成できません。

初回セッションで、私は毎週定期的にセッションを受けることを皆さんにお勧めしています。諸事情によりそれが難しい場合もありますが、私が毎週定期的なセッションをお勧めする理由は以上のようなものになります。理論的にも臨床的にも支持されていることなのですが、私が「毎週定期的にセッションを受けるのが効果の点からベストです」とお話すると(特に初対面のセッションで)、営業トークのように響くかもしれません。ちなみに、欧米ではサイコセラピーといえば、同じ曜日の定刻にセッションを行うものを指します。私が教育と訓練を受けた米国でも心理カウセリング(サイコセラピー)は基本的に毎週受けるものという認識が社会一般に浸透しているせいか、クライエントの大部分は毎週定期的にセッションを受けに来ます。

実際はクライエントの諸事情を鑑み頻度を決めますが、少なくとも、カウンセリングの始めの期間は毎週が難しい場合でも隔週まででお願いしています。スタート時点から月に一度の頻度での心理カウンセリングは、その効果の点から基本的にお受けしていません。