水シャワー

気候変動の影響か、夏の暑さが以前と比べてかなり厳しくなりました。日本の熱帯化という表現をする人もいるようですが、確かにバンコクよりも暑い日があります。

ふと、かつてバンコクで生活していた頃、私の部屋(というか建物そのものだと思う)はお湯が出ず、水シャワーだったことを思い出しました。私はバンコクで生活する前に、他の国で水シャワー(というか、汲み置かれた水を桶で自分にかける様式)を経験していたので、水シャワーには驚かなかったのですが、それでも「毎日水シャワーか」という一抹の寂しさがあったのは確かです。それでも、バンコクの気温のおかげで、水シャワーで実際的な問題を感じることはなく、ほどなく「水シャワー生活」が日常になっていきました。

タイ人の同僚に、「日本ではシャワーはお湯なんだ」と話したところ、「えー!お湯なの?」と驚かれてしまい、逆に私が驚いたことを覚えています。バンコクは暑いから、お湯シャワーの良さがわからないのかな、と思いつつ。そして、私はほどなくして、比較的近代的なホテルのお手頃なスポーツジムの会員となり、週に何回かはそこに通って「お湯シャワー」の機会を確保するようになりました。水シャワー生活に慣れたと言っても、やはり馴染み深いお湯シャワーを浴びて、ホッとする一時を楽しんでいたのです。

ところが、しばらくバンコクで生活するうちに、湯気でムッとするジムのシャワーブースが不快に感じるようになりました。蒸し暑いバンコクで、さらに湯気で蒸したシャワーブースでシャワーを浴びる。どう考えても不合理に思えてきたのです。自分の部屋の水シャワーの方が気持ちいい、そう感じている自分に驚きました。

一方で、日本の友人に「私の部屋は水シャワーなんだ」と話すと「えー、水シャワーなの?!」と驚愕と同情の眼差しを向けられました。もはや水シャワーに適応済みの私は、「日本にいる人には水シャワーの気持ちよさはわからないよね(かつては私もそうだったし)」と、あえて説明することもなかったように思います。

最近の日本の暑さを思うと、もしかしたら水シャワーの方が気持ち良いかもしれません。と言っても、実際に試す勇気が湧かず、「水シャワーに適した年齢もあるかも」などと言い訳をしています。しかし、この暑さを考えると、日本でも水シャワーがメジャーになるのも時間の問題かもしれません。それとも、既に日本では水シャワーが流行っていたりするのでしょうか。

水シャワーのもう一つの思い出は、バンコクのヘアサロンです。「洗髪しますねー(タイ語で)」と言われて、頭に冷たい水を感じた時には心底驚きました。でも、うまくできているもので、水シャワーでの洗髪が本当に気持ちよかったことを覚えています。「美容院の洗髪はお湯で、というのは固定観念に過ぎない」とつくづく思いました。ちなみに、そのヘアサロンの美容師さん(もちろんタイ人)は、私の人生史上で最高のヘア・ブローの技術の持ち主でした。私はかなり強いくせ毛なのですが、ブローのあとは完全な直毛に。翌日まで直毛のままだったように記憶しています。

水シャワーからは話がそれますが、そのヘアサロンには、タイ人の友人たちとグループで入店しました。というのも、遊んでいるうちにやることがなくなってしまい、「次は何をする?」と話し合ううちに、誰ともなく「ヘアサロンに行こう」ということになったのです。友達と時間潰し(?)にヘアサロンに行くというシナリオは日本では考えにくいと思いますが、バンコクでは普通なのかもしれません。「髪を切る予定ないんだけど」と戸惑う私に、彼女たちは「マイペンライ(問題ない)」。結局、言い訳程度に髪を揃えてもらい、水シャワーと完璧なヘアブロー技術を経験する貴重な機会になりました。

この「娯楽として友達と一緒にヘアサロンへ」というのは、実はジャカルタにいる時にも経験しています。日常生活におけるヘアサロンの位置づけが日本とは異なるのかもしれません。ちなみに、ジャカルタのヘアサロンはお湯シャワーでした。そこでも、髪を真っ直ぐにブローしてくれましたが、数時間後にはくせ毛に戻ってしまったように記憶しています。今思い返すと、私が日本人だから直毛が好みだと思われたのかもしれません(対照的に、日本のヘアサロンでは真っ直ぐにブローされた経験はありません)。

夏の夕方に、まだ熱気のある風が吹いてくると、タイにいた頃を思い出します。