脳を掃除する〈睡眠〉

今回は、身体レベルでニューロン新生を刺激する方法の一つとして睡眠についてご紹介します。

これまで、睡眠は日中の情報処理と記憶の形成という点で重要だとされてきましたが、最近になって、脳の浄化に関しても非常に重要であることがわかりました。つまり睡眠中に脳の大掃除が行われているのです。

脳はそれ自体が独立した閉じた器官なので、その自浄作用は長い間なぞでした。魚を飼っている水槽の水を放っておくと老廃物が蓄積し魚はそのうち死んでしまうように、脳に自浄作用がなければ同様の現象が起こるはず。その自浄作用が最近になって解明されました。脳は主に脳細胞とグリア細胞によって構成されていますが、睡眠中はグリア細胞が収縮して「すきま」ができ、そこを脳脊髄液が流れて老廃物を脳の外に排出するのです。この仕組みを「グリンファティック・システム」と呼びます。このシステムが働くためには十分に深い睡眠をとる必要があります。

それでは、脳の健康という視点からは何時間の睡眠が必要なのでしょうか。答えは、「7時間から8時間」です。それ以下だと翌日の認知機能が不十分だとする研究があります。個人差を考慮しても6時間から9時間とされています。皆さんは、7時間から8時間の睡眠時間を確保できていますか。

睡眠の質という点では、就寝前1時間は電子機器を使用しないことが推奨されています。これは電子機器が発するブルーライトが網膜を刺激して体内時計が昼間だと勘違いをする結果、睡眠を促すメラトニンの分泌が抑制されるためです。

また、就寝前の1時間は仕事を遠ざけておくことも大切です。これは、神経が緊張したり明日の段取りを考えて神経が興奮したりすることを避けるためです。

また、スムーズに入眠するには体温が十分に下がっている必要があります。ですので入浴から就寝までの間に時間の余裕を持たせることが必要です。場合によっては昼間に十分に体温が上がらないために夜に体温が下がらないままというケースもあります。その場合には、睡眠の3時間前から6時間前に適度な運動をすると効果があるとされています。

睡眠不足だと食欲を刺激するホルモンが分泌され、摂取カロリーが1日あたり300カロリー増えるそうです。いいことがありませんね。わずかながら朗報もあります。それは、睡眠不足が一晩か二晩続いても、それがニューロン新生を妨げることはないことです。

電気が発明されるまでは人間は太陽の24時間周期に適応して進化してきました。その頃の睡眠時間は10時間程度だったと推測されているそうです。電気の登場とともに昼と夜を人間が自在に操作できるようになってからまだ100年ちょっと、その間に私たちの睡眠時間は大きく減少しました。成人の日本人で平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は4割にもなるそうです。今一度、睡眠の量と質を見直して、ニューロン新生をパワーアップさせてみませんか。

参考:
1) Cortright, B. (2015). The Neurogenesis Diet & lifestyle: Upgrade your grain, upgrade your life. CA: Psyche media.
2) ジョン・アーデン著, 田畑あや子訳(2015)『ブレイン・バイブル』, アルファポリス.