触れること(touch)

触れることは脳を元気にする

感染症の拡大で、以前よりも人に会う機会が減りました。その結果、人に「触れる」、例えば握手であったり肩をたたきあったりする機会もなくなりました。

研究によって、「触れること」はニューロン新生を刺激することが明らかにされています。

チンパンジーは人類に最も近い種ですが、老いも若きも互いに毛繕いをしたり埃を払ったりして時間を過ごします。また、猿の群れがストレスの高い状況にさらされた後には、仲間同士でハグをして互いを落ち着かせ、絆を深める行動が見られます。人間をはじめとする霊長類は社会的な動物で、触れることが繋がりを保つ働きを持つのです。

泣いている乳児を親が抱きしめると、未熟な乳児の生理感情調整機能が成熟した親のそれに同調し、次第に落ち着きを取り戻すことは日常生活でも観察できます。つまり、二者が触れあうことで、両者の神経システムが同調し、気分がよくなる効果があると考えられます。その一つの理由としては、触れ合いによってオキシトシンが分泌されることが挙げられます。オキシトシンはコルチゾールなどのストレスホルモンを減少させ、血圧を下げ、免疫力を上げ、うつ状態や疲労を改善し、ニューロン新生を刺激します。

日常生活での工夫

日本人は家族ともあまりスキンシップをとらない傾向があると言われますが、肩たたきやマッサージなど、工夫して機会を作るのはどうでしょうか。子どものいる人は、子どものためだけでなく、自分のためにも、思い切り子どもを抱きしめてください。また、ペット(犬や猫)でも同様の効果があることがわかっています。また、エステや整体マッサージなども一つの選択肢です。

さらに、自分で自分に触れるという選択肢もあります。心理学を学んでいる時に大学院の教授が教えてくれたのですが、「はい、皆さん、片手を真っ直ぐに上げて。はい、次にその腕を曲げて反対側の肩を軽く叩いて、自分を労る声をかけてみてください」。「え、そんなことするの?」と思いながら実際にやってみると、もう一人の自分が私を労ってくれるような不思議な感覚がしたことを覚えています。同様に足のマッサージなどもいいかもしません。

「触れ合うこと」が脳の健康に重要なことをまず知ることが重要です。知ることが行動への第一歩だからです。もちろん、健康に良い触れ合いの鍵は「信頼」です。信頼していない人との触れ合いは、大きなストレスになりますので、信頼できる人、ペット、信頼できるサービスなどを工夫して取り入れながら、脳の健康、ひいては心の健康を維持していきたいものです。

参考)
Cortright, B. (2014). The neurogenesis: diet & lifestyle. CA: Psyche Media.