防衛機制(11) 感情の分離

不安や辛い思いに対処する方法の一つが「感情の分離」(以下、分離)です。これは、経験や思考に伴う感情面を認知面から分離して気づかないことにする防衛です。

分離はとても役立つ防衛です。例えば、外科手術で医師が患者の身体にメスを入れる時、医師は患者の辛さや自分自身の感情(例えば、嫌悪や苦痛)を分離することで、冷静に手術を行うことができます。また、凄惨な事件の現場検証を行う警察官にも同様のことが言えます。

「心理的無感覚」とも言えます。ホロコーストの生存者が、強制収容所での残虐な仕打ちについて話す時、彼らは全く無表情で話し方は固かったといいます。過酷な環境の中で、精神的な安定を辛うじて保ち続けるために分離によって自我を防衛した結果です。極限状態への適応には「解離」も防衛として使われますが、分離は経験が記憶から完全に消されるのではなく、感情面での意味づけのみが無意識においやられる点で、解離と異なります。

現代社会では、感情を抑えて理性的でいることを尊ぶ傾向が強いので、分離という防衛はその傾向と親和性が高い言えます。明らかな虐待経験がなくとも、親の子育てのスタイルと子どもの資質の巡り合わせによっては、子どもが分離を主な防衛として発達させることもあります。知人や友人の中に、いつも感情を表に出さず、周囲の人が喜んだり悲しんだりする場面でもクールなままで、理性的な事がらのみ表明することを理想化している人がいるかもしれません。

現代の精神分析家の多くは、分離は解離のサブタイプだとみなしています。そして、分離は知性化や合理化といった防衛の基礎となる原始的な性質を持つとされます。知性化や合理化についてはまた別の投稿で紹介する予定ですが、いずれの防衛も経験や考えに伴う感情レベルの意味合いを無意識に押し込める点で共通しています。

分離の防衛を主に使って感情を意識から追いやり、同時に思考を過剰評価し感情を軽視する傾向の強い人は、強迫観念性 (obsessive) の傾向があると考えられます。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.