防衛機制

防衛機制① 逃避

逃避は、辛い現実を避けようとする防衛です。英語ではwithdrawalで、意味合いとしては「(軍の)撤退、(意見などの)撤回、(銀行口座から現金の)引き出し」、つまり元来は自分の元にあったものを引き戻すこと、防衛の文脈では「現実から引き下がる」ということです。「逃避」という訳語は否定的な意味合いが前面に出てくる印象ですが、多くの防衛がそうであるように逃避にも程度があり、多くの人が日常で使っている例もあれば、健康度の著しく低い過剰な依存の例もあります。例えば、試験勉強をしようと机に座ったとたんに、なぜか部屋の掃除をしたくなり掃除を始める、これも逃避です。

幼児は、多くの刺激に疲れた時には眠ります。これは、日常の意識と異なる意識への逃避と考えられます。大人の場合は、社会や人間関係から逃避して、他者と関わるストレスの代わりに、自分の内的な空想の世界での刺激を求めるようになります。薬物等の使用により意識状態を変えるのも一種の逃避です。

幼児の中にも、逃避によってストレスに対処する傾向の強い幼児とそうでない幼児がおり、敏感な幼児ほど逃避の傾向が強いことが観察されます。このような傾向のある人は、成長とともに豊かな内的世界を作り出し、外界を面倒とか情緒的に貧弱だと考えるようになるかもしれません。また、養育者が過保護である場合にも、反対に養育放棄を経験した場合にも逃避の傾向は強まります。逃避によって安心に感じられる内的な場所を得たり、そこでの空想による刺激を楽しんだりできるからです。

極端な逃避の場合、例えばスキゾイド的なパーソナリテイのスタイルの人は、この逃避の防衛が過度になったと考えられ、周囲の人に関心を持たなくなります。周囲の人は感情レベルでの関与を獲得しようと辛抱強く努力する必要がありますが、なかなか困難であることが予想されます。このように、人間関係に関与しなくなる点が、極端な逃避の問題です。

反対に、逃避が防衛手段として優れている点は、心理的に現実から引き下がることにより、現実を歪曲しないですむことです(防衛の中には、事実をなかったことにしたり、曲解するものもあります)。多くの場合、逃避の防衛をよく使う人は感覚が豊かで繊細な人であるので、芸術家、作家、理論科学者、哲学者、宗教家など、まれにみる創造性を発揮する人々に多く、また、世間の一般常識に縛られずに独自の視点を持っているので、批評家にも少なくないとされます。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.