台所のお姫さま?!

かなり前のことになりますが、同僚のオランダ人の友人を自宅に誘って夕飯を一緒にした時のことです。台所をのぞいた瞬間に、彼女が「あなたって、台所のお姫さまね!(You are the kitchen princess!)」と言ったのです。「お姫さま」なんて口にする雰囲気でない彼女に「台所のお姫さま」と言われて、私は「え?」と一瞬当惑しました。おそらく目が点になっていたであろう私に、彼女は、オランダでは台所をきれいに片付けながら料理をする人を「キッチン・プリンセス」と呼ぶのだと笑いながら教えてくれました(当時の台所はとても小さかったので片付けながら料理をするしかなかったというのが実情ですが)。オランダは世界でも男女平等が進んでいる国の一つですが、言い回しには昔ながらの感じが残っているのが興味深いです。今はキッチン・プリンスもいるのかもしれません。

英語以外の母語を持つ同僚が英語で自国の言い回しをするのは興味深いものがありました。「 hard cookie(硬いクッキー)」が「食えないやつ」を意味することは推して知るべしですが、これは英語表現にはないことを後になって知りました。これも確かオランダ人の同僚が使っていた表現です。日常生活にクッキーがなじんでいるからこその表現だと思います。日本語でいえば「硬いお煎餅」といったところでしょうか。ただお煎餅が硬いことは必ずしも悪いことではない(硬いのが好きというファンもいる)ですから、ちょっと違いますね。

クッキー関連でいうと、「cookie cutter (クッキー型)」という表現もあります。どれも同じ形になることから、「個性がない」「どれも同じような」といった意味合いになります。日常生活でクッキーを焼くことがよくある文化圏ならではの表現だなと感心したことを覚えています。日本語で言えば、「金太郎飴」でしょうか。

文化と言葉という文脈で印象深いのは、タイ語の「ใจน้ำ ジャイ・ナーム」です。これは「心(ใจ ジャイ)」と「水(น้ำ ナーム)」の合成語で、意味は「思いやり」です。ご存知のようにタイは常夏の国なので、水は生命に直結します。訪問先では必ず水が出されますし、道ゆく人に水を乞われたら決して断ってはならないとされています。ですので、「水の心」が思いやりというのは納得でき、すぐに暗記できました。

タイといえば、バンコクの大渋滞が悪名高いです。車で通勤する人は渋滞を避けるために早朝に家を出て、バンコク市内のオフィスに例えば朝6時頃に到着し、そこで仮眠をしてから出勤することが珍しくありません。タイ語で渋滞を「รถติด ロット・ ディット」と言いますが、ロットは「車」、ディットは「びたっと張り付く」ことです。つまり、車が道路に張り付いて全く動かない状態を表しています。渋滞に巻き込まれた車中で「本当に車が道路に張り付いているようだ」と諦めの気持ちになったことを思い出します。このように表現について納得感が高いと単語の記憶効率も高くなるので助かるのですが、そうでない場合の方が多いのが残念なところです。例えば、「ดีใจ ディー・ジャイ」と「ใจดี ジャイ・ディー」。「ดี ディー」は「良い」を意味する単語です。「心(ใจ ジャイ)」と「良い(ดี ディー)」ですが、語順が違うと「嬉しい」と「親切な」に意味が変わり、どっちがどっちか、未だによく混乱してしまいます。ちなみに、タイ語の挨拶表現「ご機嫌いかが? サワディー」も、このディーです。

渋滞に話を戻しますが、フランス語では渋滞をEmbouteillageと言います。瓶のことをbouteille というので、つまり瓶が詰まっているような状態のことをいいます。日本の高速道路の料金所で車が10レーンくらいに広がった後、また三車線に戻るところを想像していただくと、渋滞と瓶の出口が塞がる感じが想像しやすいかと思います。きっと、このbouteilleは、ワインの瓶に違いないと私は思っています。これも覚えやすい単語の一つでした。

ところで、最近知った英語表現に「cliff-hanger」があります。文字通りの意味は「崖からぶらさがっている人、崖から今にも落ちそうな人」です。必死に岩をつかむ指先が少しずつ・・・考えるだけでドキドキしそうです。この言葉は、「この後、どうなってしまうのだろうとヤキモキするような」終わり方や状況を意味します。なんて絶妙な表現!と感動したので、機会があったら使いたいと思いつつ、使う場面には遭遇しない方がいいような気もしています。