診断とカウンセリング(上)

精神科や心療内科と心理カウンセリングでは、どこが違うのか。また、どちらに行ったらよいのか。このような疑問を持つ方は少なくないかもしれません。

精神科や心療内科は、医師が診断と薬の処方をします。心理カウンセリングでは病名の診断も薬の処方もしません。この点が大きな違いです。

一般的に、精神科では、初診には30分ほど時間をかけますが、2回目以降は、場合にもよるものの総じて短めの診察になることが多いようです。基本的に、初診時の診断により薬の処方をし、次回以降の診察でその薬の効果を確認して、必要に応じて薬の量を増やしたり種類を変えたりして調整しながら、患者さんの症状をコントロールしていくことを目指します。

診断には、APA (American Psychiatric Association )のDSM、そしてWHOのICDという診断基準が使用されます。ちなみに、心理カウンセラーは診断はできないと書きましたが、それは日本の話で、米国では心理カウンセラーもDSMに基づいて診断を行い、州によっては薬の処方もします。私はカリフォルニア州の大学院で教育を受けましたので、「精神病理学 (psychopathology )」というクラスで、DSMについて学びました。

関連して心理検査ですが、米国では博士号を持つ心理学者が行うことが一般的です。そして心理検査は日本ほど頻繁に行われず、検査をした際にもその結果は、クライエントのアセスメントの「補足データ(Auxiliary data)」という位置付けです。その背景には、心理カウンセラーは、心理検査を使わなくても、クライエントとのセッション(面談)のみを通じて情報を収集し判断できる技能がある、という基本姿勢があります。日本では、心理検査は「心理士の武器」といった位置付けだと聞くこともあり、帰国当初は、米国の心理カウンセラーと日本の心理士は別物のようで興味深く感じました。

ですから、心理カウンセリングは何をするところかというと、これは心理カウンセラー(心理療法、アプローチや教育を受けた国、カウンセリングを実施する国)によって異なると言えそうです。私は、クライエント (相談者)の内的世界(こころ)の探求をしながら、必要なものに光を当てて丁寧に吟味したり、整理したりといったプロセスを通じて、クライエントの有機体としてのシステム全体(思考、感情、身体)のバランスを再調整していくのが心理カウンセリングだと考えています。凝っているところを少しずつほぐしたり、バラバラのものをゆっくりとつなげていったり、というイメージでしょうか。そうすると、システムの中に新しいスペースが開いてきます。クライエントの新しい可能性が開いていくスペースです。実は、東京カウンセリングスペースHiRaKuはそこから名づけています。

精神科、心療内科が薬によって脳内のバランスを再調整していくアプローチであるとすると、当オフィスの心理カウンセリングは、「思考-こころ-からだ」全体に働きかけることによって脳内のバランスを再調整していくことを目指していると言えるかもしれません。

「精神科、心療内科とカウンセリング、どちらに行ったらいいのか」という問いへの答えまで辿り着いていませんが、それについては稿を改めて書きたいと思います。今回はこの辺で。

参考)
吾妻壮(2018).『精神分析的アプローチの理解と実践:アセスメントから介入の技術まで』岩崎学術出版社.
向後義之(2017).『インテーク』(講義プレゼンテーション資料)