ボウルビーが提唱したアタッチメント行動システム(恐怖を呼び起こす場面に直面したり不安を感じたりした子どもが養育者に近づき生存確率を上げると同時に安心を得ること)は、その後も様々な研究者の注目を集め、現在に至るまで発展を続けています。
発達心理学の研究者であるエインズワースは、ストレンジ・シチュエーション(The strange situation)という観察手法で母と幼児の行動ややりとりを詳細に分析しました。ストレンジ・シチュエーションは、見慣れない環境(おもちゃが沢山用意された観察室)や見慣れない第三者の存在のもと、乳幼児が母親との離別と再会にどう反応するかを観察するものです。その結果、アタッチメント行動には環境順応性があることを発見します。つまり、子どものアタッチメント行動は一様ではなく、母と子の相互作用の影響を受けて特徴を持つようになるのです。エインズワースは、子どものアタッチメント行動をその特徴から3つのパターンに分類しました。のちに、メインという研究者が発見した4つ目のパターンを加え、現在ではアタッチメントには4つのパターンがあるとされます。この子どものアタッチメントのパターンという考え方は、後の研究で発展し、大人にも応用されるようになります。
子どものアタッチメントのパターンは大きく「安心型 (secure)」「不安型 (insecure)」の二つに分けられます。後者の「不安型」は、さらに3つに分けられます。つまり、「回避型 (avoidant)」、「両価型 (ambivalent)」、そして「無秩序型 (disorganized)」です。以下に、それぞれのパターンについて簡単に説明します。ちなみに、大人のアタッチメント ・スタイルも、この4つのパターンに準じていますが呼び名が違います。
安心型 (Secure attachment)
安心型のアタッチメント を形成した子どもは、自分が不安になった時には、いつでも養育者の元に行くことで気持ちを落ち着けてもらえると体験的に学習しています。養育者を「安全基地」と認識していると言えます。安全基地である養育者がいるからこそ、世界を探究することに積極的です。養育者の元での安全とそこから離れる探究とのバランスを柔軟にとることができます。
安心型の子どもを持つ養育者は、子どもが泣いたらすぐに抱き上げるなど、子どもの状態に素早く反応します。子どものリズムに合わせるように対応し、養育者自身の欲求を子どもに押し付けることはしません。例えば、抱き上げた子どもが泣き止み、また探究の方に関心を持ち始める様子を見せたら、子どもを下ろして自由にさせます。また、感情面でも子どもの様々な感情に幅広く対応できるので、子どもは安心して自分の気持ちや考えを表現します。どのような感情でも養育者に受け入れられると学んでいるので、自分の感情をそのまま感じたり表現したりすることを恐れない子どもに育つと考えられます。
回避型 (Avoidant attachment)
回避型のアタッチメント形成した子どもは、基本的に自分の感情を抑えることで、心の安心を維持しようとします。ストレンジ・シチュエーションで母親が部屋から出て行った時も、また部屋に戻ってきた時も、子どもは無関心で反応しない、もしくは反応があってもわずかです。しかし、子どもは何も感じていないわけではなく、むしろ安心型の子どもよりも、母親との離別と再会を通じて心拍数が上昇し、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが上昇していることが観察されています。自分の体感や感情を「感じない」ことにして無関心でいるのが回避型の特徴だと言えます。
回避型のパターンを形成する子どもの養育者は、近づいてきて慰めたりかまったりしてほしいという子どもの欲求を拒絶することが多かったり、ぶっきらぼうな対応をとることが観察されます。例えば、不安な時に子どもが親のもとに近づいても、抱き上げなかったり、無視したりするようなケースです。また、子どもが悲しそうな様子をしても子どもを慰めず、逆に内側に引きこもってしまう様子を見せる養育者も観察されました。子どもは、自分の求めに応じてくれない養育者のもとで、自分の不安を持て余したり、養育者の反応に失望したりすると同時に、悲しさなどを感じてもそれを表現することは歓迎されないのだと経験的に学習します。その結果、次第に慰めや世話を養育者に求めることを諦めていくのです。
また、後の研究で、過干渉な親の子どもも回避型のアタッチメント形成をする傾向が強いことが明らかにされました。過干渉(コントロール)に対する葛藤から自分を守るために、相手に反応しない、そして自分の気持ちを感じない、という戦略を選択した結果だと考えられます。
両価型 (Ambivalent attachment)
両価型のアタッチメントを形成した子どもは、外界からの刺激や自分の感情に過剰に反応することで、養育者の関心を引き安心を得ようとします。回避型と正反対の戦略といえます。ストレンジ・シチュエーションでは、母親が同じ部屋にいるときでさえ、いつも母親の様子をうかがうあまり、環境を探究したりおもちゃで遊ぶことに集中できません。母親が部屋から退出すると強い不安を示しますが、母親が部屋に戻ってきた後も不安は消えることがありません。
両価型のパターンを形成する子の養育者は、一般的に、子どもの欲求や感情に対して反応する時あれば無視する時もあるというように、気まぐれな態度をとることが観察されました。そして、回避型の子どもの養育者のように言葉や態度で明らかに子どもを拒絶することはないものの、子どものアタッチメント欲求への対応が子どもの期待からは的外れであることが多いとされます。また、子どもの自主性を歓迎しないことが多いことも観察されており、このことは、両価型の子どもが探究行動が活発でないことを部分的に説明すると考えられます。
無秩序型 (Disorganized attachment)
上述の安心型、不安-回避型、不安-両価型の3つのパターンは、アタッチメント行動にある一定の特徴、もしくは戦略が観察されます。つまり、安心型であれば、自分の幅広い感情を表現し、それによく反応する養育者と共にいることで安心を得るという特徴がありますし、回避型であれば、感情表現を抑制し、養育者からの反応を諦めて無関心を装うことで情緒的バランを保とうとします。両価型は、養育者とのやり取りの中で過剰な反応を示し続けることが安心を得ようとする戦略であると考えられます。
これに対して、無秩序型は、どのような方策を立てることもできなかったパターンと言えます。つまり、ストレンジ・シチュエーションでの親に対する子どもの態度が、矛盾していたり奇妙であったりして一貫性がないのです。例えば、部屋から退出した母親が再び部屋に戻ってきて子どもと再会する場面で、子どもは床に突っ伏したり、その場に凍り付いたり、放心状態になったり、といった反応を示します。
養育者の態度にかかわらず、恐怖や不安にさらされた子どもは安全基地と期待して養育者に近づこうとします。このアタッチメント行動は生物学的な無意識の行動システムだからです。しかし実はこの時、無秩序型のパターンを形成する子の養育者は、子どもにとって「危険の源泉」としても経験されていると考えられています。例えば、養育者自身が解離状態だったり、子どもの不安に反応して情緒不安定になったり、という場合です。つまり、養育者に対する安全基地としての期待と危険の源泉という実際の経験との葛藤のはざまを子どもは生き抜く必要に直面します。この子どもが経験する「生物学的な混乱」によってアタッチメント行動に一貫した特徴が見られなくなると考えられています。
アタッチメント パターンの捉え方
以上に、子どものアタッチメント のパターンを簡単に説明しました。パターンに分けると理解しやすい利点がありますが、誤解を招きやすい側面もあります。
まず、「Aさんのアタッチメント パターンは安心型で、Bさんのアタッチメント パターンは回避型」というように分類できるわけではない点に注意が必要です。むしろ誰もがこの4つのアタッチメント ・パターンを持っていて、主につかうパターン、ストレスがかかると使いがちなパターンなどが人により異なると捉える方が現実に近いとされます。つまり、アタッチメントのパターンには、その時の感情の種類や文脈が重要な役割を果たすということです。
また、アタッチメント理論は現在も研究が盛んでその知見は臨床にも有意義ですが、人間の心理は4つのアタッチメント ・パターンのみで説明し尽くせるものではないことです。社会心理学者の中には、アタッチメント・パターンを4類型で考えるよりも、「(他者への親密性や依存の)回避」と「(見捨てられるのではないかという)不安」の二軸で捉える方が意味があるする意見もあります。この場合、個人のアタッチメント ・パターンは、回避と不安という二つの要素の相対的な重要性で捉えることになります。
(参考)Wallin, D. J. (2007). Attachment in psychotherapy. New York: Guilford Press. (日本語版)津島豊美(訳)(2011)『愛着と精神療法』 星和書店.