防衛機制⑨ 抑圧

防衛機制について投稿を続けていきます。防衛機制を「未熟な」ものと「成熟した」」ものに分類することがありますが、今回からは「成熟した」防衛について紹介していきます。トップバッターは、抑圧です。

抑圧は、とても辛い感情や耐えられない記憶などを意識の外、つまり無意識に押しやり閉じ込めることで、それを意識から排除する無意識の心理的作用です。経験そのものやそれに伴う感情、空想や願望などが抑圧の対象になりえます。

フロイトは、トラウマ的体験の際に抑圧のメカニズムが働くと考えました。例えば、戦争など生命が危機にさらされるような経験をした人にはその記憶を呼び起こすことができないことが多いからです。最近の神経科学の発展により、トラウマ的体験をしている最中には海馬の働きがシャットダウンされるため、そもそも記憶が生成されないことがわかっており、精神分析的な抑圧とは異なると考えられるようになりました。

後になると、抑圧の概念はトラウマなどの外的環境についてのことよりも、専ら内的なもの、つまり考え、空想などについて用いられるようになります。例えば、精神分析では、幼い子どもが同性の親を破壊して異性の親と性的な関係を持ちたいという欲求を持つとされ、これは子どもの心理の発達過程として正常なものとされますが、この欲望は子どもにとっては危険なものなので、それを抑圧することで自我の安定を保つと考えられています。

日常的に見られる抑圧としては、ゲストを紹介する時にその人の名前を瞬間的に忘れてしまう例や、本来は「ご愁傷様です」と言うべきところを「おめでとうございます」と言ってしまう例などが挙げられます。どちらの例も、対象の人物に対する無意識の否定的な感情があること、つまり、抑圧されている感情が無意識に表面に出てきてしまったのだと解釈されます。フロイトは、これを「日常生活の精神病」と呼んだそうです。私たちは、自分の中にある全ての感情、空想や欲望に意識的でいると精神的に圧倒され心の安定を保つのが難しくなるので、抑圧によって自我の安定を脅かす考えなどを意識から排除する必要があるのです。

誰もが使っている抑圧ですが、抑圧によって生活上の肯定的な面に悪影響がでたり、抑圧という防衛にのみ依存しすぎたりすると問題になります。抑圧への過度な依存は演技生パーソナリティの特徴でもあります。

抑圧の要素は、成熟した防衛の大部分に見られます。反動形成 (reaction formation) においては、例えば嫌悪を愛情に、理想化を軽蔑に変換するわけですが、その過程において当初に持っていた感情は抑圧されると考えられます。また、隔離 (isolation of affect)では、考えに伴う感情が抑圧されますし、反転 (reversal) では、元々のシナリオが抑圧された上で反転されると考えられます。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis: Understanding Personality Structure in the Clinical Process. (2nd. ed). New York: Guilford press.