兄弟姉妹の関係

アメリカ心理学会(APA)は、アメリカ合衆国における心理学分野の職能団体として代表的な学会です。私はAPAに所属しており、定期的に学会誌が届きます。2022年3月号にも興味深い記事が多いのですが、この投稿では兄弟姉妹についての記事の概要をお伝えしようと思います。

心理学の分野では、兄弟姉妹の影響についての研究はあまり盛んではありませんでした。しかし、幼少期から思春期を共に過ごし、成人し自立した後も交流を続けることを考えれば、親との関係よりも兄弟姉妹との関係の方が時間的には長く続く可能性が大きく、兄弟姉妹との関係は親との関係に劣らないほど、個人の成長と幸福において重要だと考える研究者もいます。

幼少期の成長の過程で、兄弟姉妹は直接的、間接的に影響を与えます。お互いに教えあったり支えあったりする一方で、両親の関心をめぐって競争することもあるでしょうし、望ましくない影響を与え合うこともあるでしょう。つまり、兄弟姉妹の関係は、良い方向にも悪い方向にも、子ども行動、適応、幸福を独特のやり方で形づける影響力を持っています。

成人してからも、兄弟姉妹は互いに精神的健康や幸福に影響を与え合います。兄弟姉妹との間に思いやりがあり衝突の少ない関係があると、困った時には物質的な援助や精神的な支えを得ることができますし、孤立や落ち込みから守ってくれる力があります。他方で、緊張や葛藤の多い兄弟姉妹との関係と落ち込みや薬物使用との関連を示す研究もあります。

中年以降の成人にとっても兄弟姉妹の関係は重要であり続けます。ある研究によれば、歳を取るに従い、兄弟姉妹間の衝突は少なくなり、その関係は温かみを増していきます。特に、姉妹間の関係は温かい交流になる傾向があるようです。しかし、中年以降になっても兄弟姉妹間で衝突し、さらに親の態度に兄弟姉妹を不平等に扱う「えこひいき」がある場合には、落ち込みや不安、敵意や孤立を経験する傾向があることも報告されています。

このように子どもに重要な影響を与える兄弟姉妹の関係を良いものにするために、親ができることは何でしょうか。家族研究者によると、最も重要なことの一つに、兄弟姉妹を平等に扱い、ある子どもを他の子どもより好意的に扱っているように見える行動や態度をとらないことが挙げられます。子どもは親を非常に注意深く観察しており、親が他の兄弟姉妹と自分とを平等に接していない時、それを敏感に感じ取ります。自分が兄弟姉妹に比べて不平等に扱われているという認識は、その子どもにとって悲しい体験であるだけでなく、適応力が弱まったり、家族間の関係全般に影響を与えます。また、自分が不平等に扱われていると感じる子どもだけでなく、自分が「親のお気に入り」であると認識している子どもにも同様に葛藤を引き起こす可能性が指摘されています。

したがって、研究者は、親が定期的に自分の態度を振り返り、どの子どもにも平等に接しているか、特定の子どもを優遇していないかを自問することを勧めています。また、親が兄弟姉妹を互いに競わせたり、子どもの喧嘩に親が入ってどちらかの味方をしないことも大切だと指摘します。

日常生活では、意識的に親が兄弟姉妹に違う対応をすることもあるでしょう。その場合にも親の態度は公平であることが原則です。子どもにとって公平に扱われていると感じることは重要です。例えば兄よりも妹に早く寝るように言う場合、説明がないと妹はそれを「兄へのひいき」と考える可能性があります。しっかりと言葉で「あなたはお兄ちゃんよりも小さいから早く寝る必要がある」と説明すれば、おそらく妹も親の躾が公正であると理解するでしょう。

心理学者は、親が子どもにケンカや揉めごとをどう解決すればよいかを教えることが重要だとも指摘しています。例えば、意見を違いについて言葉で説明し、一緒に解決策を考える、といったことです。子どもたち自身で揉めごとやけんかを解決できるようになると、親は一歩下がって冷静に兄弟姉妹を見守ることができます。

4歳から8歳の二人兄弟姉妹のいる親を対象にした調査研究では、親が子どもにソーシャルスキルを教える方法をトレーニングしました。例えば、遊ぼうという友達からの誘いにどう応じるか、断る時にはどのように断るか、自分の感情を調整する方法、けんかへの対処方法などがその内容です。親はその内容を子どもに教えます。そして1ヶ月間のトレーニングの後、子どもたちは、自分の感情をよりうまく調整でき、兄弟姉妹間の関係もよくなったと報告されました。さらに、その研究によると、結果として家族の調和が改善し、母親のストレスや落ち込みが軽減されたことも報告されています。子ども同士のけんかが少なくなると、母親の落ち込みが改善されるとする研究は他にもありますが、母親にとって兄弟姉妹けんかが日常的なストレスになっていることが伺われます。

兄弟姉妹の争いの対処方法を子どもに教えること以外にも、親ができることはあります。例えば、家族でゲームをしたりスポーツをしたりして、兄弟姉妹が共に楽しむ時間を作り出すことや、親が兄弟姉妹の間の関係を大切に考えていることを伝えることです。「みんなが仲良くしていると、お母さん、とても嬉しい」をいったメッセージは、兄弟姉妹が仲良くすることを親が重要に考えているということを子どもたちに伝え、その価値観を子どもたちが学ぶ機会になるでしょう。

サイコセラピー(心理カウンセリング)では、親と子どもの関係に注目する傾向がありますが、兄弟姉妹との関係がクライエントにどのように影響を与えているのか探究することが重要なケースも少なくありません。実際、幼少期からの兄弟姉妹間の関係、また親と兄弟姉妹間の関係は、歳をとっても繰り返されていることが多く、中にはクライエントがその影響にそれほど自覚的でない場合もあります。このような場合、カウンセリングでは、繰り返されるパターンの中でクライエントが引き受けている役割に気づくきっかけを提供したり、兄弟姉妹との間に境界線(バウンダリー)を引いたり自分の考えをはっきりと伝えたりすることで関係が改善するようにサポートします。

参考)Weir, K. (2022). Improving sibling relationships. Monitor on Psychology, 53(2), 60-67.