共感とは ①

共感 (empathy)について、2回に分けて書きました。

共感でないものは?

「共感してほしい」「共感することが大切」など、共感という言葉を耳にしますが、「共感する」とはどういうことでしょうか。

まず、共感とは違うものについて考えてみます。時々ある誤解ですが、共感というのは、相手の表現している感情がどんなものであれ、「わかる、わかる、本当にそうですよね」と温かく受容的な態度で応答することではありません。また、相手に同情することでもありませんし、相手を心配することとも違います。

英語で言えば、これらは “feel for”です。対して、共感は “feel with” です。具体的にはどう違うのでしょうか。

それでは共感とは?

共感は、相手が感じていることを自分が感じ取る感覚のことです。相手の内的世界での経験を想像し感じ取る能力です。相手の視点から、その人の経験を理解しようとする努力とも言えます。

ですから、相手が怒りを感じる状況であれば、聞き手である自分も怒りを感じる、それが共感ということになります。

こう考えると、同情や心配というのが共感でないことが明らかになります。つまり、同情も心配も、相手の感情ではなく、自分の気持ちです。相手の状況を自分の価値軸で判断して同情したり心配したりするわけですから、かなり共感とは異なる心の働きだとわかります(同情や心配よりも共感が優れているということではありません)。

共感する能力には、その人の持つこれまでの経験が役に立つことは想像に難くありません。それでも、それはあくまでも自分の経験であり、相手に当てはまらない可能性を常に尊重する必要があります。

カウンセリングで、極限まで共感の努力を傾けると、次第に、クライエントが感じていることのなのか自分が感じていることなのか、わからなくなることがあります。それは、相手と自分のバウンダリー(境界線)が緩むからです。それは必ずしも悪いことではありませんが、境界線を緩めている自分を自覚していることがカウンセラーには必要になります。

日々の生活で、皆さんは、相手に共感していることがありますか。

参考)
McWilliams, N. (2011). Psychoanalytic diagnosis. New York: Guilford Press.
Kahn, M. (1997). Between therapist and client. New York: Henry & Hot Press.
杉原保史 (2015) 「プロカウンセラーの共感の技術」創元社.