精神的な問題について診断して病名をつけるという行為は、日本では精神科医しかできません。カリフォルニアでは、Marriage and Family Therapist (MFT)という資格を持つセラピストであれば、診断できます。授業でもDSMという診断基準が包括的に記載されている書物を参照しながら診断について学びました。(といっても、サイコセラピストを目指す学生のクラスでしたから、基本的には患者をラベリングする「治療モデル」には距離を置くスタンスで。知らないと精神科医と話ができない(抵抗できない?)から、という感じでした)。
DSMは、最新のものが第5版です。第4版から第5版への大きな変更点の一つが、パーソナリティ障害の位置づけです。第4版では、パーソナリティ障害は、診断上、他の障害とは別扱いでした。なぜかというと、パーソナリティ障害はその他の障害とは性格が異なり、平たく言えば、治療が難しいとされたからです。なかでもボーダーライン・パーソナリティ障害は、「扱いにくい患者のための診断名」とされるほど、そもそも、科学的に診断することは難しいとされました。
第5版では、パーソナリティ障害は特別扱いされることなくなりました。確かに、パーソナリティ障害と診断された人の気持ちを考えれば、妥当な変更だと思います。でも、DSM上の扱いが変化したからといって、パーソナリティ障害の性格が変化するわけではありません。
パーソナリティ障害のパーソナリティとは、つまりその人の性格であるので、そもそも「治す」ことの対象になり得るのかという疑問があります。一方で、本人や周囲の人の生活に著しい支障をきたしているのであれば、何かしらの対応が必要になります。
認知行動療法は、パーソナリティ障害の治療に有効だとされています。これは、性格を変える(治療)というよりも、「考え方を意識してみる」「対人関係での対応方法を変えてみる」という対処方法を学ぶという意味合いが強いです。そして、認知行動療法にも新しい流派が生まれてきており、例えば、マインドフルネスと組み合わせた認知行動療法は、特にボーダーライン・パーソナリティ障害に有効だとされています。このように、パーソナリティ障害に対してできることは確実に増えているといえます。
ちなみに、ナルシシスティック・パーソナリティ障害も、ボーダーライン・パーソナリティ障害も、年齢とともにその特徴が弱まっていき、いわゆる「平均幅内」に収斂していく傾向があると言われます。その理由として、ある意味パワーの必要な性格なので、次第にそれに十分なエネルギーが失われていくのではないかと考える心理学者もいます。
認知行動療法は、精神上の多様な問題に効果があるとされています。また、認知行動療法は、言語を使ったロジカルなアプローチで、直線的な因果関係を明確に想定しながら進めるので、現在の私たちの日常の思考様式と親和性が高いという点も強みだと思います。現在は、ネット上にも書籍等でも、認知行動療法に関する情報やワークブックが多く提供されていますので、関心がある方は、まずは自分で試すことができるのも良い点だと思います。